僕の発作がただの生理現象となり、死神が悪魔となり、再び小さい裕とともに暮らし始め、再び寺岡さんがこの戦場に参戦し、そして年の瀬となった。実験の日の前後の強烈な数回のショックと共に人生の基盤が信じられないくらい激変していた。そんな時期、取り敢えずしばらく離れてろと言わんばかりに、三人とも誰かに会っている暇などないくらいの鬼のように忙しい年末を迎えた。まぁ、毎年だけど。今年の堺教授は寒さと過労で坐骨神経痛になり、必然的に僕の仕事が増えた。屍体と一緒に居られる時間は苦になるはずもないが。

 大晦日とかいう概念は僕にはない。それは単なる12月31日でしかなく、次の日は正月ではなくただの1月1日だ。僕にとってそれは月日がリセットされ年が更新されるカレンダー上の特異点だった。

 警察官も医師も毎年この季節は朝から晩まで忙殺される。そこに深く関わる法医学者の僕も例外ではない。今年はまず、大雪でコントロールを失った車による轢き逃げ事件の屍体が連続で担ぎ込まれ、更に忘年会でのアルコール中毒死と、泥酔からの用水路転落事故死と、酔った勢いでのケンカでの傷害致死がそれに続いた。そして最後にはとうとう交通事故とアルコールの2つが融合し、飲酒運転でドライバーがハンドルを切り損ない、泥酔した人間を轢いてガードレールに激突して、法医学教室に屍体が運ばれることとなった。だが、多忙過ぎる故にか警察情報が錯綜し、連絡では轢死者の遺体と言われ、書類ではドライバーの遺体と書かれており、どうやら病院では轢かれた被害者は重傷だが存命で男性だとのこと。運び込まれた屍体は女性である。警察が再確認したところ、ドライバーは女性で、その女性がこちらに運び込まれてきた屍体であると分かった。

 なぜそのようなことになったかというと、ことの発端は冬の日本海沿岸名物『冬季雷』である。普通太平洋側では雷は夏の風物詩だが、日本海側の地域は冬に雷が多発する世界でもレアな地域らしい。しかも夏の落雷の100倍の威力がある。威力が100倍のため一日一回しか落ちない。つまりどこぞのポンコツ魔女の爆裂魔法並みにリキャストタイムは24時間、である。高威力の落雷が原因で送電線がやられ停電が起こることが多いが、それがこの事故日の前に久しぶりに起きていた。
 その日の夕方、僕が職場で書類を書いていると、バリバリと寒気を切り裂く轟音が突如鳴り響いた。大学も僕のマンションも大丈夫だったが、街の北側の落雷周辺では停電が起こって幹線道路の信号機が広範囲に点灯しなくなり、年の瀬の夕方のラッシュで大渋滞となり、各所の交差点の交通整理で交通課の警察官が出払ってしまったということだった。交番でも先輩が交通整理に呼ばれ、新人警察官の立番中に例の飲酒運転事故が近くで発生した。現着していた新人巡査と交通捜査課の間で伝言ゲームみたいな伝達ミスが行われたようで、先程の情報錯綜となったらしい。