「そうでしたね。それでは心配も一応解消したので、そろそろ風呂に入って寝ます。幸村さんによろしく」
「替わらなくていいの?」
「ええ。あの人は丈夫ですから」
「まぁね」

 すると、急に幸村さんの声が聞こえてきた。

「おやすみくらい言え」
「あ、ええ。おやすみなさい。今日は、あの、清水先生のことありがとうございました」
「いいって。俺も…反省してるんでな」

 幸村さんはいつになくきまり悪そうに小声で答えた。

「なにに?」
「だから……今朝の」
「ああ、いいです。事実ですから。あの、清水先生が眠剤飲み過ぎないように注意してて下さいね」
「わかってる。心配するな」
「あ、そうだ、聞いてもいいですか?」

 僕はようやく原初の妄想の事実確認を思い出した。

「なんだ?」
「僕達が夜中に帰ってから清水先生は大丈夫だったんですか? なにか聞いてます?」
「疲れ過ぎて片付けもしないで、寝間着にも着替えないでそのままベッドに入って寝たって。岡本のことも心配だったけど、俺が見てるから良いかって、爆睡だと」
「そこは信頼されてるんですね」
「有り難いことに、な」
「じゃ、もういいです。おやすみなさい」
「じゃな。ちゃんと寝ろよ」

 微妙な関係の二人を置いて、僕は通話を終えた。終わったあと、自分の妄想がまったく無駄だったことと、清水センセの話の深刻さに呆然としていた。
 まさか、幸村さんが清水センセの心配をして見に行っていたとは思わなかった。この二人の関係性は危なっかしいのかそれなりのバランスがあるのか本当にわからない。わからないくせに、監視も案外良いものかも知れないと勘違いしそうなくらい僕は安堵した。寺岡さんのことは言うタイミングも言う決心もなかったが、今はまだそのタイミングではない。話し終わって気がついたが、寺岡さんにしろ清水さんにしろ、みんな自分も悪魔だったと言って、僕を慰めてくれる。人とは愛情深いものだ。自分の闇を他人のためにさらけ出せるなど、僕には計り知れない。