出ない。やはり寝ているのか。いや、どんな可能性も有りうる…だって、あの日の、あの実験の日の出来事は解放も告白も分析もなにもかもが限界を超えていた。ひとつひとつどこを取っても筆舌に尽くしがたい。誰もがいつどんな精神状態になってもおかしくないと思えた。だって僕だって。気が狂いそうになって寺岡さんに助けを求めた。幸村さんですら、僕を抱いたあと一言も残さず部屋から消えてしまった。頭の中が妄想でいっぱいだ。雪の積もった庭でうつ伏せに倒れて冷え切った彼の姿、もしくは、階段から落ちて頭部が血塗れのまま床に倒れている姿。それらを頭の中から拭い去ることか出来ない。人の心配をしていた方が気が紛れていたはずが、電話に出ないだけのことがここまで不安で仕方無いとは!

 その時、いきなり電話が鳴った。ディスプレイも見ずに僕は通話ボタンを押していた。

「清水先生⁉」
「いや、俺だよ」

 しまった、と思った時はもう遅かった。

「…すみません…幸村さんでしたか」
「清水さんじゃなくてすまねぇなぁ」
「ええ…いえ、まぁ」
「どうした?」
「いえ、清水センセが心配で電話したんですが…」
「俺はお前が心配だよ」
「そうですか」
「声が聞けて良かった」

 気まずさか何かわからないが、僕達はお互いに黙った。実際心配されるのは正しかった。寺岡さんがいなければ、発狂していたかも知れない。その方が良かったのかも知れないが。

「その割には、珍しく何も言わずに居なくなってましたけどね、今朝」

 黙られても気持ちが悪いので、率直に嫌味を言ってみた。

「起きなかったんだよ、つついても、耳元で呼んでも」
「あぁ、そうでしたか」
「思わず脈と呼吸を確かめたぞ。怖かったな」
「それは……すみません。全く記憶にありません」
「いいよ、お前に謝られると耳が痛い」
「そんな軟弱な耳でもないでしょ」
「多少の嫌味が言えるくらいには戻ったのか」
「まぁ、いろいろ……あって。」
「後悔はしてないが……言い方ってもんがあるよな。すまない」

 そんなことを言われると、事実なだけにもう言えることもないような気になってしまった。何を言ったら良いのかわからないでいると、幸村さんのほうが口を開いた。

「発作とかじゃ、ねーんだな?」
「ええ。それはないです」
「そうか。ならいいや。あのさ、あのこと清水さんにも話した。清水さん今、ストーブの薪をガレージに取りに行ってる」
「えっ? 一緒なんですか?」

 生きてるんだ! 良かった……と僕は手放しでホッとしたかったが、僕の妄想には1mmも引っかからないシチュエーションに頭の中が同時に大混乱を来した。まず昨日の今日でなぜ一緒に居られるのかと驚いた。僕と寝てないとかウソついたのか? それとも、岡本を抱いたとかマウントを取りにわざわざ報告に? もしくは単に何も言ってないし、清水センセも聞けないという線もある。だが、あの話をしてるということは、僕を抱いたことを前提に話をしなければ通じないだろう。それともまた清水センセから幸村さんを呼び出したのか。