時間は深夜のわずか前。電話するのに非常識じゃないギリ手前だ。とは言っても、清水センセから掛かってくる電話でたまに12時過ぎに起こされたこともあったので、貸しとしてあまり気を遣わなくても良いとは言える。明日は日曜日だし、まだ起きているだろうと高を括って電話を掛けた。一晩に二人の人に電話するなんて、僕にとってオーバーワーク過ぎるけど。
 ベッドに腰掛け、着信履歴を開き、清水センセの番号を押した。ほんの少しの間の後、呼び出し音が鳴る。仕事中以外はほぼ4コール以内で瀬水センセは電話に出る。

 1…2…3…4…5…6…

 僕は通話を切った。寝ているのかも知れない。眠剤を飲んでいたら起きないだろう。僕からこんな時間に電話が来るとも思っていないのだろうし、出ないのは当たり前か。だが、オーバードーズしてるとしたら? ソラナックスではODしても死にはしないし深く長く寝るだけというが、効き始めに夢遊病のように記憶が飛んでいて、起きたら身体中アザだらけだったとかいう人もいたりする。薬で致死量で死ぬわけではなく、ベランダから落下して死んだり、お風呂で溺死したりという死因もたまに仕事で見る。それは同じく清水センセもわかっているはずなのだが。しかし、精神的に追い詰められたところでそんな客観性は果たして生まれるのかどうか? この前の凍死自殺の人みたいに、この寒さで夢遊病のように外に出て倒れて眠り続けたら? 起こりうる可能性を考えるだけで、不安と心配が増大していく。いやいや、彼はドクターだ。しかも優秀なドクターなんだから、しかも警察医なのだから、その線引きは出来てるだろうよ。
 
 本当に? 自殺はしない、あの人は。でもうっかり事故死する可能性はある。いや、そこまでバカじゃない。だがしかし、あの狂気を自分で止められないことも起きうるのでは? ああ、もう、考えても始まらないんだよ! 確認できれば、彼がそこまでバカじゃないという言質が取れればそれで済むんだ!
 いつもならすぐ来るはずの折返しが来ないことが不安を増大させる。僕はもう一度電話した。呼び出し音が鳴る。
 
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