ここまでくると駄々こねのような言いようになって来たのだが、寺岡さんは無駄なことはしないんだろうなと思ったりもする。問題は清水センセのことを聞き出されることで、これは幸村さんに固く固く口止めしなければならない。だがそんなこと出来るんだろうか? 幸村さんが清水センセという僕にとって非常に重要なキーマンのことを寺岡さんに言わないなんてことがあるのだろうか? もし幸村さんが僕の口止めを意に介さないで言ってしまうとしたら、どんな風にあの人のことを寺岡さんに説明するんだろうか。この事態を知ったら、寺岡さんはどう思うのだろう。清水センセのことを寺岡さんはどう評価するのだろう。幸村さんと清水センセと僕の、イビツで狂ったトライアングルを、でもそれしか有り得ない救済をもたらしているこの関係性を、寺岡さんはいったいどう思うのだろうか。それ以上に、と僕は新たな危惧を発見していた。寺岡さんの情報と清水センセのやりそうなうっかり発言が、今後、敏腕警部補の脳内で運悪く擦り合わせられることもあるんじゃないのか?

 でも、それもいいのか。それでも、それがバレたところでなにかこれ以下の、最低最悪の何が生まれるというのか?

 自暴自棄とは怖ろしいものだ。僕の中で、事態も自己評価も心底、底を打ったようだった。これ以下のものを想像できる余地がない。これ以下……そうか、僕以外の誰かが死ぬとか逮捕されるとかだろう。それは勘弁してほしいな。何度も言うように、僕は死を欲しているわけではないのだ。死は自然の中で常に供給過多なのだから。となると、清水センセのことが寺岡さんにバレて誰か死ぬ人が出たりするのだろうか? 僕が寺岡さんから罵られて、清水センセが怒られるくらいだろう。怒られるのかな? 褒められは……しないだろうけど。いや、褒められるかも知れない。でも、佳彦は僕の前にも複数の未成年者に犯罪を犯しているのは確実で、さすがにそれは僕のせいではなくて、佳彦のせいだろう。それは一度捕まって反省したほうが良いのかも知れない。考えているうちにもうよくわからなくなってきた。黙った僕に寺岡さんが焦ったように話しかけてきた。

「ええー? 裕はそんなに私に会いたくないの?」
「あ、いえ、ちょっと考え事してました」
「なんだよそれ! なにかマズいことでもあるのぉ?」

 あなたみたいな勘の良いオトナは嫌いだよ、とでも言いたくなる。掘られないように注意を逸らしてみる。

「なにからなにまでどうしようもない事態ですよ……」
「はは……どうにも詰んじゃった、って感じだね」
「ええ、まぁ、なにしろ寺岡さんに助けを求めてるんですから」
「ほんそれ」
「死にたいです」
「でも死ねないねぇ」
「ええ」
「グッジョブ! 小島隆ってとこだな」
「まったくです」

 ふぅ、と寺岡さんは電話の向こうでため息をついて僕に言った。注意は逸れたが、本当に寺岡さんにベッタリ頼ってる感じが必要以上に出てしまって、自分でも面食らった。