「えっと、それは置いといて、結論なんですが、僕の生後1年くらいの空白を明らかにしないと……つまり、何故父は自殺して僕は置いて行かれたか、とか、母はなんで出産前に死んでしまったのか、とかなんですが、それがわからないと僕が人に殺されてまで埋めたい空虚感が埋まらないんじゃないかと思うんですよね。幸村さんは、それを俺が埋めてやる、って言ってたんですが。そこが埋まればこんな殺して欲しいというのが無くなると言われて。でもそこは幸村さんでは埋まらないと思うんです。それより、セックスでたぶらかしてまで誰かを殺人者や犯罪者にして自分の欲望を叶えようというのが、もう考えるだけで耐え難いんです。社会の害悪じゃないですか。この世からいなくなったほうが世間のためです。なぜ、母は僕を死産してくれなかったのかとか、父が僕を連れて行ってくれなかったのかとか、悔しくて、それで死にたくなって困ってます。そしたらもう、自殺でもいいかな、ってところまで。でも死んだら小島さんも母も嘆き悲しむと思うんです。小島さんがまたウツに戻ったらと思うとやりきれなくて。そしたら寺岡さんにも悲しい思いをさせるとわかってますし。だからどうにかしなきゃなんないというところに追い詰められて。特別養子のこととか、本当は母には聞かないで墓まで持っていくつもりだったんですが……そうもいかなくて。とにかくそれはいつかは知らなければと思うようになったんです」

 奇跡か才能か偶然かわからないが、清水センセのことを言わずにここまで何とか話せた。幸村さんはまぁいいけど、清水センセのことは確実に寺岡さんを心配させることになるので、到底言えるわけがない。

「ようやくそこまで突っ込んで考えてくれる人が君にも現れたんだね。良かったよ。それにちゃんと反応した裕君も成長したよ。正直びっくりしてるし、こう言っちゃ何だけど、こういう話が聞けてほんと嬉しいよ。君の死神については隆もずっと心を痛めてたし……いや、あいつの自業自得なんだけど。でもその、幸村さんだったっけ? その人、あいつの恩人なんじゃないの? 責任もないのに尻拭いしてくれてさ、小島くん幸村さんに足向けて寝られないね」
「結果的にそうかも知れません。あと、小さい裕まで再び現れました」
「えっ…」

 寺岡さんは電話口で一瞬息を呑んだ。