「うわぁ! なにそれ! そそるよ裕君! エッロいなぁー……勃ちそう」
「でも、僕はそこは変わんなくて。好きか嫌いかがわからないって、屍体しか興味ないってすぐに言ったんですが」
「でも、それでも良いって、オレが好きなんだからそれで構わないって、辛いんなら抜いてやるよって、発作のたびに解剖室で白衣のまんまステンレスのベッドに押し倒されて口で抜かれちゃってたの?……それとも発作のエロ過ぎる裕君は抗うことも出来ずにお持ち帰りされちゃって警部補のベッドで剥かれて失神するまでぐっちゃぐちゃにされたの? あぁーいやぁイイ! いくらでも出てくるよ、今夜のオカズだよ! でもなんか切ないわ。好きだなぁ、そういう切なくて背徳感たっぷりの濡れ場、良いよぉ」
「解剖室ではしてませんから。あと、僕と幸村さんを抜きネタにしないで下さい」
「ええぇ? なんでぇ? そこは解剖室がエロいでしょうよ! でも幸村さんっていうんだ、その警部補。なんか実名ってリアルでやらしいなぁ……岡本先生、我慢すんなよ……幸村さん、そこ、ダメ……あーイイよイイよぉ!」

 ついつい、口が滑って名前を言ってしまった。寺岡さんは僕を深刻にさせないようにいつものやつで全力でふざけているようだった。イジられてるとも言う。これで「警察署のタイヤ置き場で手錠掛けられて自殺屍体の写真を何十枚も鑑別させられた挙句、発作がバレて告白されてこのあと滅茶苦茶セックスした」などと口を滑らせたら、この妄想がどうなるかがただただ怖ろしい。

「なにまた勝手に想像してるんですか。ま、いいや。それで解剖を重ねるうちに、どんどん発作がひどくなっていって、発作の後に死にたくなっていって、自分の出来ることいろいろ対策もしたんですが、全部裏目に出て、幸村さんだけが処理が上手くなって、身体はどんどん頼るようになってしまって……死神が幸村さんを殺さないように僕はいつも素っ気なくして離れようとして、色々あってもうめちゃくちゃになっちゃって」
「ああ……まぁそうなるよねぇ」
「幸村さんは楽天的で強引なしつこい人なので、運も良いらしいし、自信があって、死神なんかいないって言い続けてくれてたんですが」
「君にとっては最適な人材なんじゃない? 誰かさんと違って、心中なんか針の先ほども考えない丈夫な男なんでしょ?」
「ええ、丈夫です。ウザいくらい丈夫でした。でも、つい昨日のセックス中に色々あって、分析の結果、僕の死神は世を忍ぶ仮の姿で、本質は自分が死ぬために殺人者をエロでたぶらかすインキュバスというか、悪魔だって幸村さんに言われた……暴かれたっていうか」
「ええっと、つまりさ、オカルティックな呪いじゃなくて心理的な能力と魅力だってことだね。しかも人殺しに限るってか? ストライクゾーン狭ぁ。悪魔ねぇ。そもそも松田君はそう言ってたじゃない?」
「そうです。死神って言い始めたのは小島さんだから」
「あいつか……バカ野郎だな。どこまでも禍根を残しやがって。腹立つわぁ」
「まぁ、許してあげて下さい。僕が非道いんですから」
「その件は裕君は一切悪くないんだからね! 大人が寄ってたかって極悪やりつくした結果なんだよ!」
「そうも言えますが……原因が、ほら、例の……父が縊死して、僕が置いて行かれたのがそもそもの始まりなんで」
「うーん……まぁ、それがなけりゃ、あんな鬼畜らに関わりもしなかったのかもね。私が言う資格もないけど」
「寺岡さんはずっとフェアに僕を面倒見てくれてましたから。感謝してます」
「ないない。なんかゾワゾワする。やめてやめて」

 寺岡さんは変な謙遜をした。罪悪感がまだあるんだろうか。