とは言うものの、母親に今の時点でどんなきっかけを作ってどんな風に切り出せるのか皆目見当がつかない。それまでにうっかり自分を死なせないように頑張らなくてはならない。どちらも困難に満ちた作業だった。
 それなら尚更、僕の死という閃光で一瞬で周りの人々の命が焼き切れるのを防ぐために、今すぐ清水センセに縋るのは甘えではないと思いたかった。だって清水センセも、僕の本当の父が自殺したことの真相をすぐにでも聞きたいだろう。これは清水センセのためでもあるんだよ。そうだそうだ。大丈夫、よく寝たし、昨日は金曜日。そうすると今日は順当に行けば土曜日だろう。そうすると明日はよほどのことがない限りたぶん日曜日だ。清水センセは僕のために休日を確保していたと言っていたから、きっと僕のために時間を割いてくれる。あーあーあーなにも気にしないで誰かに縋れるって、こんなに楽なんだ! あー死神をやめて良かった。いや、どうでもいいからなんだろうな……どうでもいいからかなぁ……共犯だから、共犯だからいいんだ、清水センセ、同罪だから良いんだよね? 同罪なら、いっそ悪魔同志だったらいいのに! 清水センセも悪魔だったらいいのに! 引き摺り降ろしたいなあ。一緒に堕ちていってほしいんだ…一緒に堕ちてくれるよね、清水センセなら一緒に、どこまでも堕ちて堕ちて堕ちて、黄泉路の道行にまで僕のために屍蝋で作ったロウソクの行灯を掲げて一緒に腐り堕ちてあなたもダメなどうしようもないこの世にいちゃいけないような凶器だったらいいのに!!!!!

 そんな人じゃないってわかってる……あの人は僕の最大の犠牲者だ。あの人をおかしくしたのは、僕だ。

 踊り狂ってたはずが床に崩れ落ちる。どうでもいいはずなのに罪悪感が胸一杯にほとばしる。僕は本当は会っちゃいけないんだ。でももう取り返しがつかなくなっちゃったんだ。あの人を今僕から引き剥がしたら怖ろしいことになる。癒着を無理やり引き剥がしたら組織が壊れちゃうんだ。ごめんなさい。ごめんなさい。実際あの人が僕を殺してくれる約束が反故になれば、僕も再び発狂する。どっちが癒着してるのかもうわからなくなった。どうすればいい? どうしたら許される? 許されたいなんておこがましいんだよ。

 今は会えない。会いたい。だめだ。会っちゃいけないんだ。彼は僕の悪魔を全肯定するだろう。それでいいと安心させて甘やかしてくれるだろう。僕が死にたいと泣けば、その場で殺すことをなにも厭わないだろう。監視があろうがなかろうが、きっと彼は幸村さんの制止より早くすべてを終わらせるだろう。そして敏腕刑事の前で僕の屍体を抱きしめて微笑むだろう。考えただけでも全身に愉悦が満ちてくる。頭を抱えた指が戦慄くほど。