泥のように寝ても残留する身体の痛みと拭えない疲労感で、怒りも長くは続かない。そもそも自暴自棄なのだから、怒りのような感情はそうそう続くわけがない。怒りが萎えてしばらくすると、死にたくて死にたくて、自暴自棄ついでに、清水センセに会いたくなった。彼なら変わること無く『僕が殺してあげる』と囁き続けてくれるだろう。その囁きをずっと聞いていたい。今日の幸村さんの話を聞いたらどんな感想を言ってくれるのだろうか。もう既に幸村さんが清水センセに連絡してるかも知れない。「俺が岡本の死神をやめさせたぜ!」などとマウントを取っているかも知れない。これで幸村さんVS.清水センセは一対一でドローだな。あぁー僕のために命を賭けてくれた人たちにこんなこと。とことん最悪なんだな僕は。サイコパスって本当はこういうヤツのこと言うんじゃないだろうか? 僕はサイコパスなのか。自分が死にたいサイコパスっているんだろうか。

 そうそう、まだ僕は自殺の屍体で発情するんだろうか? カラクリがバレたんだから、もうそれも無くなっていてもいいはず。でも、バレていたとしても、まだこの手法に気づいているのは幸村さんと僕だけなんだから、まだまだ騙せると僕の可愛い悪魔が高をくくっているんなら、まだ僕はフワッと微熱に犯されて勃起を繰り返す身体のままかもしれない。ちょっと実験してみようか。
 立ち上がって清水センセにもらった『Suicidium cadavere』を服も着ないで探した。だが、本棚にも部屋の中にもカバンの中にもどこにも見当たらない。曖昧な記憶を辿ってみると、清水センセの家から持って出た覚えがない。帰り際の清水センセとギクシャクした「僕は聞いてないよ、裕くん! いつか話してもらうから」の件で、全員気まずい思いをしてそそくさと帰宅したからかも知れない。そうだ、せっかくもらった大事な本を忘れたから電話をしよう。清水センセの声を聞ける。いちばん頭がおかしくてセックスアピールの効かないいちばん安心な人に連絡すれば

 そうすれば うっかり このまま首を吊って  死なずに    済むかな

 死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい
 じゃあ、ぼくがしんじゃえばいいんだ! 小さい裕はケラケラと笑いながら答えた。僕が死ぬか、真実を突き止めるか、の二択。とうとう僕は、どうにかして母親から本当の両親の死について聞かなくてはならなくなった。それが悪魔である小さい裕の望みなのだし、彼はいつも僕のピンチにやってきて、蓋をしたものを開けてくれる。死神になろうとして、死に損なった小島さんの記憶を封印していたが、今やそれも解かれ、僕がしがみついているものが死んだ両親だろうと予測はついた。だが、『生きたい』という生まれつきの生き物の本能をここまで拒絶して死を望む理由をどうにかして知らないともう後がない。