尿が膀胱を圧迫して朦朧としながら眼が覚めた。なぜか身体中が痛く、寝返りを打つだけで節々が重く疼いた。いつの間に意識を失ったのだろう。最後の記憶は小さい裕の声だった。幸村さんは気配が掻き消えていた。知らないうちに帰ったようだった。ベッドの中で漏らすわけにもいかないので、動かない身体をまずベッドの下に自ら落とした。思ったより床が硬かった。

「痛…」

 重力で裸のまま落下するのは痛いが無理はなかった。テーブルから手探りでメガネを取って、四つん這いでトイレに辿り着き、便器によじ登り用を足すとそのまま寝落ちしていた。はっとして起きると、いつの間にかメガネがトイレの床に落ちているのをすんでの所で踏みそうになる。何分くらい寝ていたんだろう。まあいいや。痛い腰を曲げて拾う。イタタタと言ってしまいそうになった。なんでこんなに身体が痛いのかわからない。マラソン大会の翌日みたいだ。ベッドに戻ると僕の出した精液のシミがシーツに点々と付いていた。それを見て、ああ、身体が痛いのは長い時間のた打ち回ったからだ、と遅まきながら気づく。長時間頭が狂っていたので普段動かさない筋肉の変な動きをし続けていたに違いない。しかも明け方まで。

 身体中の痛みと引き換えに、僕は死神の化けの皮を剥がれて、晴れて悪魔に戻った。

 空虚が脱力感を伴って心身を支配していた。恐怖とか深刻さは昨日で食傷していたので、昏々と眠って起きた今は焼け野原に独り立つような、変に抜けた感覚と自暴自棄のような気持ちが空虚感を修飾していた。もうどうでもいいや、というような。痛いのは身体だけじゃないが。

 悪魔か。そうだろうよ。

 否定したいけど出来ない。これから先も否定することは出来ないんだろうな。はは。悪魔だって。僕がだよ? どう思う?
 でも僕はわかる。悪意はないし、頑なで死んでるけど見境がなくて悪魔なんだろうな。いや、悪意がなくて頑なで死んでるけど見境がないなんて、悪魔以外の何物でもないって。一番ダメなのは、表面をいくら取り繕うが、本当のところは自分が死ぬためには人の命をなんとも思ってないことだ。