「……そうです」
「まさか、認めるのか」
「……もう…よくわかりません……わからなくなりました。ただ、わかってるのは…今の両親が本当の父と母ではないことを知った時のショックと、本当の父と母が意味不明な死を迎えていたというのが……まだどこかで鳴り響いてるってことくらいです」
「そうか……ショックで人格が乖離したくらいだもんな。小さい裕、だったか」
「僕はこの二人の死に結論が出ていない。でも、もうどうやってそれを母に訊いたら良いのかわからないんです。僕がそれを尋ねたときの母の気持ちを考えるとなにもかも投げ出したくなります。そもそも、知らないかも知れません。だけどそれがわかるまでは、僕は自分が誰かを死なせる存在だってことを捨てられないんだ……!」

 それを聞いた幸村さんはまた大きなため息をついた。

「でも、なんでさっきそれが出たんだ?」
「それ、とは?」
 
 幸村さんの声が少し大きくなった。

「小さい裕だよ。お前はなんで俺とのセックス中に乖離したときと同じような衝撃を感じちまったのかって」
「どうしてでしょうか…気が狂いそうでした、疲労困憊で気力も体力も限界で……頭の中のノイズも酷くて…身体の感覚だけが意識を埋め尽くしていて、はっきりとは覚えて無い。でも、幸村さんが僕からペニスを抜いた途端、物凄い空虚感が襲ってきて…その空虚感が何かの記憶に繋がったと思ったら…小さい裕が、いました。耐え難い空虚感だったから…それが引き金なのかも知れません」

 乖離するほどのダメージなのか、僕もそう言われると疑問になった。

「セックス中に乖離したかどうか…僕にはわかりません」

 わからないが、今、ここで乖離したのではないのだろう、と僕は感じていた。結局僕はアレ以来、乖離し続けているんじゃないだろうか…民法817条の2を調べて、《特別養子縁組》というものが我が家族だったことに気づいたその日から。寺岡さんがそのことを僕に告げ、隆が僕を抱えてあやしているうちに小さい裕はいつの間にか隠れた。しかし消えた訳じゃない。隠れてずっといるような気がした。僕の奥底に。