「図書館であの人が僕に関わるまで、僕が僕以外の生きている人間を無視していたわけがわかった……その時にはもう……あの風呂場の棒の耐荷重のことなんか忘れてた気がします。誰も報われない……足を踏み入れれば死んでしまう不毛な砂漠みたいな自分を、なんでもいいからこの世界から…隔離したかったんだ…」
「死神である証明を強化したかった、のか」
「今思えばそうなります。そしてその時思いました…今の母が危ないって。中二のときに手首切って母に見つかってから、母という存在を初めて認識して、そこから母に意識を向けることが多くなっていたので。僕が意識した人は、みんな情緒不安定になって、死を望むようになる。あの時はこれ以上僕と付き合ったら、小島さんの病状が僕のせいで悪化して、今度こそ失敗しないように万全の準備をして自殺に望むんじゃないか、とその恐怖に常に苛まれてました。そして、母もそのうちどうにかなってしまうんじゃないかって…だからせめて、僕が養子だって気づいてないふりはし続けなきゃって…」
「意識を向けなければ死なないと推測したわけだ」
「はい。小島さんが自殺未遂したすぐ後は、実はそこまでの危機感はなかったんです。戸籍のこと、まだ知らなかったから。でも、教授の家で小島さんの話を聞き、実の両親の死と被った時、僕の中に初めて確信のようなものが生まれました。僕はやっぱり死神なんだなと。だから僕は自分を僕に関心のある人間から隔離しようと決めたんです。それは、みんながこんな僕を見守って、こんな僕に期待して、優しくて淋しい良い人たちだったからなんです。それは幸村さんも清水センセも同じです」
「俺は違う」
「違いません。こんな残酷で自己中な僕のことを考えてくれて、優しくて、真剣で、二人ともバカが付くくらいの、良い人じゃないですか。 僕はそんな方々を僕という死神から守らなきゃって、教授と小島さんが乖離した僕を救ってくれたときに誓ったんです。僕のために誰も傷つくなって、願ったんです。だけど、小島さんは死にたいのに死ねるわけがない方法を選んだことを…幸村さんに言われて……思い出しちゃったんです」
「自分を死神にするのに都合が悪いもんな」

 その通りだとわかっている。わかっているが故に怖さで思考が支配される。でももう、隠しておくわけにいかなくなった。僕の中で何かが起きていた。発作が消えたことも、幸村さんと清水センセが捨て身で僕を救おうとしたことも、最後のセックスの中で小さい裕が僕に大事なことを告げたことも、僕の死にもの狂いの防衛網がホツレかけている証左だった。