「俺はな。俺はそう思ってるってだけだ。ホントのとこなんかその小島隆ってヤツにしかわからんだろうさ。いや、本人だってよくわかってないかもしんねぇし」

 そう言って、幸村さんはチッと舌打ちした。

「言いたくなかったのはな、俺がそんなこと言った所でお前が納得するわけ無ぇだろ。どうせ俺がお前を攻略するためのデタラメだってな、そう思われて終わりだって…そしたら俺はただのズルいヤリチンだろ。ただでさえ俺の好感度なんてゼロに等しいしな。でもずっと言ってやりたかった。お前の幻想をブチ壊したかった。ブチ壊せたら、だけどな」

 緩んだ幸村さんのペニスが、ズルッとアナルから押し出された。こんな話をしながら硬さなど維持できようはずもない。僕の陰茎もいつの間にか小さくしなびていた。

「あーもう! 二回目出せねぇ運命なのか? 今夜は」

 ガックリと首をうなだれる幸村さんのそれにすら答える余力がなかった。痴呆のように口元も半開きで、茫然自失したまま幸村さんの顔を見上げていた。

「どうした? 呆れてものも言えねぇってか。まぁ、そうなるよな。俺も自分に萎えた」

 そう言うと幸村さんは僕の隣にバタンと仰向けになった。

「すまんな、お前の大事な人を貶した。お前はその大事な人に無理心中されて、誰かと付き合うことにほんとうに深い傷を負ったんだって、わかってるよ。無理心中なんて…一生塞がんねぇ傷になることもある。それが15歳なんて微妙で過敏な時期にそんなこと背負ったら…考えただけでもゾッとする。俺は…悪いけどそいつを恨んでる。優しくて頑固な岡本になんてことしてくれたんだって。でも起きたことはもう変えらんねぇんだよな。恨んだってなんも変わんねぇ。そいつがお前に悪いことだけじゃなくて、いろんな経験をくれたことだって話を聞きゃわかる。だけど、悔しいんだよ。お前が無理心中の後遺症でこの世で幸せになんないように自分を遮断していることがさ。孤独を受け入れることだけが得意になっていくお前を見てるのが……俺はお前の発作は厄介だが、これが無理矢理世界とお前を繋いでいる必要悪のような仕組みなんじゃないかって思ってた。治って欲しいが、治ったらお前が安々と棺桶に自分から閉じこもって出てこなくなるような気がしてな。もし俺が抱けなくなったとしても、発作さえあれば誰かがお前を放っておかないと思ってた。究極俺じゃなくても良い。お前が……孤独のままでないなら、嫌だけど俺じゃなくても、仕方ないなって……でも、その細い命綱も切れた。今の俺にはなぜか清水さんに希望を託すしかないんだぜ。とんだ噛ませ犬だ。参っちまうよ」

 そして、大きなため息をついた。

「寝よう。疲れたろ? 悪かったな、最後だって貪って…また気絶までさせた。終わったほうが良いんだ」

 そう言うと幸村さんは寝返りをうち、僕に背中を向けた。

「ひと寝入りしたら出てくから。安心しな」

 僕は思い出していた。あのとき外れたシャワーカーテンを見ながら僕も思ったんだ。こんなステンレスの棒で、隆の身体が支えられる訳がない、と。そしてその後すぐ、それを自分の意識から排除していたことも。

「…噛ませ犬……なんかじゃ…ない」

 虚脱の中、僕は渾身の力で呟いた。