「ああ、そういえば聞いたな。前に寝物語で岡本に根掘り葉掘り訊いて」
「そうでした。言ってましたね。忘れてた」
「さっき、出てきたのか? その、小さい裕が」
「ええ。幸村さんにアナルからペニスを引き抜かれて…物凄い空虚感が襲ってきて……夢中で空を掻いているうちに、小さい裕が頭の中で話しかけてきて」

 だきしめてくれたんだよ

「抱きしめられて? そのあとは?」
「足が…ブランと下がってたみたいです」
「そのあいだは?」
「あいだとは?」
「抱きしめられたあと、足が下がるまでの記憶は無いのか?」

 記憶はない。というか小さい裕が話さなかった。

「つまり、父が椅子に登ったり、縄を掛けたり、縄の輪に首を通したりしてたりしてたのを見なかったのか、ってことですかね?」
「まあ、そういうことだ」

 そのことは僕のさっきの記憶にはなかった。

「小さい裕はその間のことはなにも」
「そうか」

 幸村さんが何に引っかかってるのかわからなかった。そのうち幸村さんが布団に潜り込んできた。

「寒い」
「なんで裸で布団から出たんですか」
「お前が気を失った横で寝転んでられるか」
「どっちでも同じですよ」
「お前にはな! 俺は生きた心地がしなくて一緒に寝てらんねかった」
「セックスの続きはしないんですか」
「出来るか! 恐怖で萎えたわ!」
「あ、そうですか」

 萎えたと言ってるそばから、幸村さんは布団の中で僕を抱きしめた。

「あー……ほんと怖かった」
「2回めなのに?」
「言ったろが。何回やってもこれには慣れんぞ。もっと怖くなる。ロシアンルーレットかよ、クソっ!」
「あんな激しく犯しておいて?」
「……最後だからな。悪かったよ」
「なんでいきなり抜いたんですか?」
「イキそうだったからな」
「焦らしたんじゃ無いんですか」
「その余裕は無かったな…焦らしたように見せて誤魔化した」
「そうだったんですね」
「小さい裕が出てきたのは、あの時抜いたせいで?」
「よくわかりません。でも頭がおかしくなりそうになりました」
「でも、お前は拒まないんだよな」
「ええ、そうですね。きっともう一度抱きしめて欲しいのではないでしょうか。父は一度きりで死んでしまったので。それで僕は、自殺屍体を見ると思い出すんでしょう。そして発情すれば誰かが抱いてくれると…無意識はそう画策した、のかな。そうなら短絡的で…笑っちゃいますね」