うっすらと目が見えてくると、ベッドの脇の床に誰かが座っていて、ベッドに両肘をついて頭を抱えていた。朦朧とした頭が少しづつ稼働し始めてくる。これは…そうだ、幸村さんだ……すごく激しく責められてて……久しぶりに小さい裕が出てきたんだっけ…それで? ああ、僕はまた頸動脈洞症候群を起こしたのか……それでまた幸村さんは頭を抱えてる…またやっちゃったって思ってパニクってるんだろう…罪悪感の谷底あたりにハマってる姿かもな……

「幸村さん…」
「え…あっ! 目、覚めたか!」

 頭を抱えていた幸村さんは僕の声にハッとしたように顔を挙げた。

「大丈夫か? ちゃんと見えてるか?」
「ええ、特に問題はないです。どれくらい意識なかったですか? 僕」
「5分…くらいか…慣れんな、これは。死ぬかと思ってゾッとする、毎回」
「死ねなかった、んですよ」
「やめろ、それは」

 幸村さんがツラそうにそう言うので、さすがに黙った。しばらくして幸村さんが沈黙を破った。

「……やっぱり元凶なのか、アレが」
「アレ? 元凶?」
「気を失う前にさ、口走ってた。おとうさんつれてって、って」

 他人の口から聞いたからなのか、なぜか目が潤んできた。口に出して言っていたのか。頭がおかしくなってたせいでそのあたりの記憶が曖昧だ。だが、気を失う前に僕はわかった気がしていた。発作の消えた後に残った微かな発情のわけが。

「僕…口に出てましたか…」
「ああ、言いながら何か、掴もうとしてた」

 掴もうとして、つかめなかった。

「あしに…」

 涙が溢れそうになり、僕は気づかれないように幸村さんの反対の方に顔を向けた。小さい裕が見ていた景色は僕の記憶にはない。でも、小さい裕の視界を借りたような感覚があった。リアルだった。骨ばった足首とか、色の失せた足の裏とか、床と爪先の間の茫漠とした空間とか。でも、抱きしめられている光景は今のところ小さい裕の視界には無かった。だが、はっきりと小さい裕は言った。抱きしめてくれたんだよ、と。

「…手が…届かなくて」

 顔を背けた割に鼻声が隠せるはずもなく、僕が泣いていることがわかった幸村さんは、困ったような声で僕に聞き返した。

「岡本の……親父さんのことか」
「ええ。首を吊ったんです。きっと、僕の前で」
「前に言ってたな」
「その前に、抱きしめられた、みたいなんです。その記憶はないけど、初めて抱きしめられたみたいで、その次にはもう父は首を吊って僕の前にぶら下がってたんだと思います」
「記憶がないのになんでわかる?」
「それは…えと…小さい裕が教えてくれて…」
「小さい裕……?」

 僕は小さい裕が生まれた経緯についてかいつまんで幸村さんに語った。高校の時に戸籍を見に行ったときのことを。話しているうちになんとか涙が引いていった。