僕を止めてください 【小説】





「イケるか、これ」

 そう言うと、僕の目の前に5インチのスマホの画面が差し出された。最初に目に飛び込んできたのは灰色の背景の中の真っ赤に染まったシャツだった。

「あああっ!」

 僕は思わず片手で叫んだ口を覆っていた。カラーだ…赤い…全身赤い…潰れてる…アスファルトだけが灰色で、そこに飛び散った浮き上がるような赤…血液…割れた頭蓋骨…赤い…赤い…真っ赤…真っ赤…

「くあああっ…!!」

 僕は口を押さえたままソファから前のめりに落ちていた。跪いて床に手をついて崩れそうな身体を支える。

「ビンゴか」

 小島さんはゆっくり僕の身体に覆いかぶさってきた。

「なんでですか! なんで!」
「これしかねぇだろ…お前が生きてることわかるの、これだけなんだろ?」

 そう言うと画面が再度、うずくまった僕の目の前に差し込まれた。血の赤が視界を埋め尽くす。血の海で崩れた飛び込みの轢死体…でももう目を離すことが出来ない。事故じゃない…これは事故じゃない!

「やめてええええっ!!」

 後ろ抱きに羽交い締めにされた。画面を見せられながら空いた手で股間を握られる。

「うくぅっ!」
「お前がやめてって言うのが聞きたかったよ」

 耳元で囁かれる。なぜだろう、耳が熱い。

「いやだ…いやなんです…この…身体が…いや…だ…」

 喘ぎながら僕は小島さんに訴えた。

「…いやって言え…もっと…もっと言えよ」
「嫌だ…僕はこんなの嫌だあああっ!!」
「でも逃げられねぇだろ? ほら…もっと見ろよ。大好きなんだろ? 良いんだろ?」
「やめてええええぇ!! 僕を返してよ!! 元に戻してよ!! 小島さん…僕を…屍体のまんま抱いてくれるって…言ったじゃない…」
「小島…じゃねぇだろ…ほら…じゃあ俺に懇願しろよ…泣きながら俺に許しを乞えよ…裕…お前の泣く顔が見たいんだよ…」

 小島さんの声が興奮で震えてる。僕を助けてくれる小島さんはどこかに消えた。

「お願いです…お願いだから落として…もういやだ…どうにかしてください…さっきみたいに…ねぇ…た…隆……隆!!」

 隆は僕の耳に口を付けて息を吹き込んだ。僕の身体が勝手にビクンとはねた。

「裕…裕…すげぇ良いよ…お前…俺の名前覚えたんだ…えらいぞ…」