「ここで犯したい」

 本気なのか冗談なのかわからないことを言って、幸村さんは僕の靴を乱暴に脱がして玄関に放った。

「好きに…すればいい」
「ああ、好きにするさ」

 両手首を床に押さえつけられた。またキス。顔を離して僕を見つめると幸村さんは泣きそうな顔をした。

「好きなんだよ」
「知ってます」
「言わせろよ」
「聞いてますよ」
「好きだ」

 大きな身体が僕にかぶさってくる。雪の冷気に満ちた寒い廊下で幸村さんは僕を抱きしめた。

「こんな感じてんのに、好きかどうかわかんねーのか」
「残念ながら」
「残念だな」
「ええ」

 僕は心配になって幸村さんに尋ねた。

「あの、僕はいいんですが、幸村さん寒くないんですか?」
「まぁ、寒いな」
「部屋に行きませんか? エアコンつけたほうがいいです。風邪引きますよ」
「心配してくれてんのか」
「ええ、まあ」
「無駄に優しいな、岡本は」

 ククっと笑って、幸村さんは僕の身体の上に起き上がった。

「そうしよう。マジで寒いわ」

 先に立ち上がった幸村さんは、僕の手を取って引っ張った。エアコンをつけると僕はバスルームに連行され、裸に剥かれシャワーで直腸を洗われた。流石に寒すぎたのか幸村さんはバスルームではキスしかしなかった。身体を拭かれたあとすぐさま裸でベッドに放り込まれ、幸村さんに再び抱きしめられた。憎むべき発作もなく、希死も自傷の兆しもなく、これで幸村さんに抱かれるのが最後だと思うと、深い安堵が胸に広がった。もうこれで、あなたが死ぬのを恐れなくていいのだ、と。幸村さんの熱で発生する羽音のようないつものノイズが耳の中に響く。熱が熱を産む。結局僕は拒めない。自ら取りに行くことはない。だが、行きがかりで発生した熱に違和感を感じながら、同時に逃れられない焦燥に満ちた性感の渦に巻き込まれる。だが、拒めない、ということは、拒まない、ということだろう。この2つは意志ではなくて、誰のせいにしたいか?という選択の違いでしかない。発作がなくなるとそ
 それにしても、自殺屍体で起こるこの発作ではないふんわりした淫欲とはいったいどこから来たんだろうか。そして僕はなぜこれを拒まないのだろうか。
 後ろの排泄器官に太い指が入ってくる。その感触に思わず仰け反る。仰け反って突き出た胸の突起を舌で転がされて僕は腰をくねらせて悶える。