「コイントスで決めろってか!?」
「ええ。神のみぞ知る、です。僕より判断力あるって思ったんで」
「コインが!」
「いいえ、コインは媒体ですから」
「お前には意志っつうもんがないのか? てか、なんで2枚なんだ? 1枚でいいだろ」
「この決定は僕には難しすぎます。意志とかのレベルじゃないんですよ。これは中国とかで死者の意志を問う時に使ったりしますので、陰陽思想なんですよ。陰と陽で2枚です。コインが多いほうが僕のあるかないかの意志を汲みとってくれるんじゃないかと」
「冗談じゃねぇよ。本当にお前は自分の責任で何も決めねぇんだな! そしたら俺が投げるのは違うぞ。お前の責任で投げろよ! お前の判断を俺に委ねるなって!」
「冗談ではないです。でも、僕はコイントスなんてやったことないから、ちゃんと出来るかどうか……」
「運動神経皆無だからな、岡本は」
「ええ」
「じゃあ、ダッシュボードに投げろよ」
「うるさいですよ」
「裏か表が出りゃ、何でも構わねーだろ。我慢しろ」
「わかりました」

 幸村さんは僕の手に20円を握らせた。

「10円玉の表ってどっちですかね?」
「ああ、それ、発行した年の書いてあるほうが硬貨の裏だっていう話だぞ」
「え、じゃあ、この建物の絵のほうが表なんですか。初めて知った」
「俺の命運は10円玉で決まるのか……情けねーな」

 嘆く幸村さんを尻目に僕は車のダッシュボードに10円玉を投げた。キンコンコロコンコンとうるさい音がして銅貨はふた手に別れ、その後運転席の前と助手席の前でほとんど同時にパタンと倒れた。幸村さんが人差し指で、目の前に倒れたコインを手前に引きずってきた。僕はそれを覗き込んだ。建物が描いてある。

「表だな」
「表、です……」
「そっちは?」

 僕の前の10円玉を僕も手前に引きずった。正直見たくない。だが、幸村さんが待ちきれずに僕より先に硬貨の表面を覗き込んだ。

「これ、裏だな」

 言われて僕はそれを確かめた。10と描いてあった。そんなエロい答えを神が出すのか? いや、僕か?

「……ええ、裏です」

 それを聞いた幸村さんはいきなり車を発進した。慣れた様子でパーキングに車は入っていった。深夜を回っているのでガラガラだった。降りだした雪で、すでにうっすらとパーキングは白かった。車を駐めて、チラつく雪を払いながら僕たちはまた二人でマンションのエレベーターに乗った。これで幸村さんとの最後の夜になる。死神から赦された、エアポケットのような夢とうつつの間の夜。

 ポエのYESは裏と表、つまり東洋思想で言う『陰陽』の状態を示す。エネルギーの循環は、同じエネルギーでは成し得ないというのがタオの理念だと本には書いてあった。陽は陰が、陰は陽があってはじめて一つの要素となりえる。相反し相生するエネルギー、それは陰と陽、上と下、右と左、夜と昼、光と闇、空と地、それらが万象を産み、世界を構成し、壊れていく。創造と破壊は永遠に繰り返す。そして生と死、も。