「最初の日……最初に僕が先生んちに行った日も?」
「だからその日も次の日も全部だよ、全部。ふたりで飯食って、なんかテレビでも見て、それ見ながらお前がなんかパニクって、ほとんど清水さんが話してたっけな。何話してたんだ、あれ?」
幸運にもテレビ画面は見えてなく、幸村さんの視点は僕らに向いていたようだった。いつの間にか冷や汗をかいていた。
「せ…先生の、過去の話……です。僕との最初の出会いから、あの写真集の話から、僕を探しまわってた話とか……僕の知られたくない過去も知ってて、ゾッとして……パニクッてました」
「まぁ、そう清水さんからも聞いた。だいたい同じだな」
「先生も…知ってたんですか? あの夜、幸村さんが張り込んでたの」
「あとから俺が自分で教えたから知ってるさ。本当に監視されてたんだぁ、って笑ってたけど。まさか、その翌日にまたお前んちに突撃するとは思わんかったけどな」
「なんで先生の動向がいちいちわかるんですか!?」
「会うときは教えろて言ってあるし。まぁ、清水さんはお前に会う前に緊張で必ず一度はパニクるんで、どうしたらいいか俺に電話で泣きついてくるから。ウブなヤツでよかったけど。俺は損な役回りだわ」
「そんな……」
そんなことが僕と会う前段階で繰り広げられてるのを初めて知る。監視といい、相談といい、初めて知ることばかりで頭が割れそうだ。
「まぁ、だから、いつでもタイミングよく出動出来る。前にお前の尾行してた時のこと思い出すなぁ」
「仕事は!? そんな時間……幸村さんにそんな暇ないじゃない!」
「時間はなんとか作れるんだよ。指示さえ出せば俺の優秀な部下はしっかりやっててくれるし。若手の育成も兼ねてる。一石二鳥だな」
「プライベートですよ! なんで業務中に……」
「業務だよ。殺人予備罪を大目に見てやってるんだ。犯罪を抑止してるっていう、警察として当然の業務だろが! だいたいお前との関係を盾に取られて脅されてるんだ。公然と出来るかっての」
真顔は変わらなかった。それが僕を戦慄させた。いつからこの人までこんな頭がおかしくなった? 僕は今聞いている話がほとんど信じられずにいた。ここでも偶然なのか必然なのか不明だが役割交換が起きている。ストーカーをしていた清水センセがそれをやめ、その替わり幸村さんが清水センセと僕のストーカーになる。監視という名のストーキングだ。しかも清水センセが今までそれを全く僕にわからせなかったことにも驚いていた。



