僕を止めてください 【小説】



「さっきの話ですが、どのみち選択肢は、幸村さんが僕を送る、以外はないってことですよね。なんでこんな風になったんですか?」
「今更それ聞く?」
「わかんないです」
「本気の殺意のある人間とお前を、実験の後ふたりきりにさせんのかって」

 いつにないような真顔で幸村さんは答えた。

「お前とあいつをふたりきりにすんのか?」
「でも……清水さんに、僕に会えって言ったの、幸村さんなんじゃ?」
「監視つきでな」
「監…視…?」
「俺はあいつが、お前を本気で殺す意志があることを知ってるんだぞ?」
「僕は殺させないって約束してもらってます」
「それがどうした」
「清水センセは僕との約束は守ってくれますから!」
「あんな基地外がか?」
「ええ! あんなおかしい人でも、ですよ」
「俺はそんなことは信じちゃいないさ。死ぬほど悩んだって言っただろ? 結論は“賭け”だ。だが俺は、清水さん、あんたを見張ってるからな、ってこと」
「それで、今日…」
「いや、今日だけじゃなくて、申し訳ないが、お前らがこのしばらく、どこでなにしてたか、俺は全部知ってるよ」

 そんなことさっき三人で居た時に一切触れられてない。それは清水センセは知らないってこと?

「えっ? じゃ、清水センセに言ってないんですか!? 何の話も出なかったのに?」
「ぜんぶ承知の上だって。俺とのこと今日まで言うわけ無いだろが。それに話が出なかったわけじゃない。言ってただろ? 俺にバレたから清水さんが岡本を殺せる可能性が減ったって。それはバレただけじゃないってことさ。とにかく、あんたが岡本裕を殺そうとしても、俺がさせないってな。清水さんは『どうぞ』って言ってたぜ」

 それは、考えてみれば幸村さんにとっては当たり前というべき行動であったが、急な宣告はまるで青天の霹靂のようで、驚愕に僕は震えた。

「監視されてたんですか……?」
「張り込みはお手のもんだ」
「うそ、でしょ?」
「ウソなもんか。あいつがちょっとでも怪しい行動したら踏み込めるようにスタンバってたんだ」
「いつから見てたんですか!?」
「最初っから。大学に清水さんが行っただろ。あの時も張ってたよ。わかんなかっただろ?」
「待って……それじゃ……」

 そのとき僕は凍りついた。もしかしたらあの最悪な佳彦のリベンジポルノをこの人が見てるのかも知れないと。