しばらくして僕は幸村さんの車の中に居た。さっきまで清水センセが助手席を覗き込んで、寂しそうに僕に小さく手を振って家に帰っていった。ここはメモリアルパークの駐車場だった。田舎の郊外の県営公園などと同じで、ここの無料駐車場はゲートもなく100台ほどの広大なスペースがあって、夜間は駐め放題となるらしい。幸村さんは僕に見られないようにここの奥の一角に駐車して、清水センセの車が僕を迎えに出たのを確認してから家に僕らより先に入り、リビングの隣の寝室に隠れているように清水センセに言われていた。
 そして事前の打ち合わせで二人は、実験後のエンディングをなぜかこのように起こりうる三つのケースに分けて段取っていたことを、帰り際に清水センセが僕に説明した。そして今日はケース③に該当するので、このまま幸村さんに送ってもらうから、と清水センセは複雑そうな顔で僕に言った。

①実験により発作が起きて、清水センセの計画で発作が治まり、問題なくそのまま日常に戻れたら、その後の観察のために岡本は幸村さんと清水センセの家に泊まり、翌日幸村さんの車で自宅まで送る。
②発作が起きて治まらず、清水センセがパニックになり収拾がつかなくなったら、幸村さんが岡本を家まで送って今までと同じように性欲の処理をする。
③発作が起きなくて清水センセがパニックにもならない場合、岡本を自宅に送っていくのは幸村さん。

 結局、最後に車で送迎するのはなぜか全部幸村さん。ケース分けの必要がわからない。それを僕に説明するのも意味不明だった。色々と二人で考えていたんだということを僕に伝えたかったのかも知れない。

「勝った割に寂しい背中だな」

 トボトボとパーキングを離れていく清水センセを小さくなるまで眺めていた幸村さんが、助手席の僕に呟いた。

「いつもです。いつもあんなですから」
「ああ、そう」
「さっきからなんなんですか、その連帯感」
「お前のせいだろが」

 幸村さんが僕を咎める。責任はお互い50%づつだと思うのだが。咎めたあと黙って運転席に座ったまま中々エンジンを掛けない幸村さんに声を掛けた。

「あの、帰りましょうか」
「わかったよ」

 車がしぶしぶパーキングを出た。誰も居ない真夜中の公道でアクセルが踏まれて、加速したワゴンは滑るように走った。