「やべ……これ内緒?」
「人の過去を勝手にバラすな!」
「裕くん? どういうこと? 幸村さんに言えて僕には言えないって」

 そんな誤解をされ続けられたくなくて、僕は本音を言わざるを負えなかった。

「違います! 心配させたくなかったんです。だって先生、絶対自分のことみたいに悲しむから、薬をまた飲み過ぎたりして……」
「勝手に僕の感情を予想しないで! なにそれ! それじゃあ裕くんのこと、僕は全然知らないんじゃない? あの時のことしか話してくれてないの? そんな大事なことなんで教えてくれないの……酷いよ……僕がすぐに泣くから? 心配してくれるのは嬉しいけど、僕は泣いて辛いんじゃない。裕くんのことをもっと知って、裕くんのために泣いている時間が僕にとって一番大事なんだよ!」

 それを見ていた幸村さんが自分の失言をフォローするべく、仕方なさそうに口を挟んだ。

「いやぁ、清水さん、俺もこいつの過去洗いざらい聞くのに何ヶ月も待ったからな。話を聞いたらわかるけどよ、中学のときの例のひでぇ話以外にも聞いてるほうがトラウマになりそうな残酷物語のてんこ盛りだぞ。こいつが打ち明けるのにも結構な勇気が要るような話の連続だ。あんたもトラウマ持ちなら少しはわかるだろ?」

 それを聞いた清水センセは悔しそうな顔のまま幸村さんを睨んでいたが、しばらくして無言でうなずいた。それを見ると幸村さんは僕に矛先を変えた。

「でも、話してやれよ。いや、話すべきだな。この人ならお前の死神妄想も治せるかもよ? そのビョーキも人に相談でもなんでもして、是非ともお早めに治療して欲しいけどな、マジで!」

 幸村さんが嫌味半分だが僕に取りなした。清水センセに対する精一杯のマウントとも取れる。この二人は仲が良いのか悪いのか、どっちもなんだろう。そして清水さんに大真面目に告げた。

「清水さん、このビョーキを治さんとマジで明日はないぞ。俺達も、岡本も」
「わかりました。また僕、幸村さんに助けられちゃいましたね。裕くん、その話はまた今度、ゆっくりね? 絶対だよ?」

 清水センセが恨めしそうに僕に念を押した。

「ええ、まぁ……」

 話したくなくて、その後が継げなかった。解決するより前に、また薬をODするような煮詰まり方をさせるのが嫌だ。気まずい沈黙のあと、耐え切れずに清水センセが口を切った。

「とにかく! 今日のとこはもうこれで良いよね? 念願の実験が成功したんだから、それだけだってほんと奇跡でしょう? 残った大問題は……今日はもう考えるのはよそうよ。なんか僕だけ情報不足みたいだし」

 気を取り直し、主導権も取り直した清水センセが今日の総括をした。最後に僕にしっかり釘を刺して。
 そこで今日の実験は本当に終了となった。