「残念ながら厄介なのが残ったな。俺はお前に一生つきまとってお前が死神じゃないってことを証明して大往生で死んでやろうと思ってたんだがよ。発作のないお前には俺はもう用済みだしな。せいぜい司法解剖で岡本先生のご意見を聞きに行くくらいだわ」

 幸村さんの怒りが徐々に鋭さを増していく。誤魔化しようのない明確さで役割が交代してしまった。

「それとも岡本は俺が誘ったら晩メシに付き合ってくれるってか?」
「どんな風に付き合ったら良いかまったくわからないです」
「君は誰も殺してないでしょ? 裕くんの恐怖感なんだよ、それは。現実にはもう起こらないんだって!」

 母親が子供を叱責するような響きで清水センセが僕を威圧する。ああ、そうか、清水センセは僕の実の両親が僕に関わって死んだこと、知らないんだっけ。でも言わない。この人には言っちゃいけない。

「それを証明できますか? 証明しているうちに人が死んでいくんですよ?」
「それは清水さんの言うとおりだぞ! お前は俺達の言うことなんかただの雑音程度にしか思ってないんだろうけどな。お前の死神妄想の根源は、父親の自殺が原因なんだろ? それなら……」
「なにそれ」

 幸村さんの話を呪詛のような低音で断ち切って、清水センセが目を見開いた。

「違う! 先生の前で言わないでよ!」

 一番知られたくないことを思った直後にバラされて僕はとても慌てた。両親が誕生の前後に相次いで死に、高校生になるまで親が養親だったとは知らなかった……などと例のエピソードを聞かせようもんなら、僕のことなのに自分の人生のように悲嘆に打ちひしがれ、自らの無知まで責め始めるような気さえする。そして、恨んでいる彼の実の母親のことも、あんな仕打ちを受けたとしても、まだ物心ついてからも生きている母親が居ただけ僕よりマシだったから、自分より裕くんのほうが不幸で可哀想だ、などとは決して思って欲しくない。僕への憐れみが一層深くなるのは間違い無いし、それはヤバイことだ。清水センセの愛着と狂気を更に増強させるのは目に見えている。

「知らない。聞いてないよ」

 目を見開いたままで清水センセの顔が固まっていた。この怖い顔は佐伯陸が僕の取説を教えなかった、という時の顔に似ていた。