「あはは……発作、やっぱり起きませんね、センセ……見たらわかりますよね、幸村さん?」
「ああ、そうだな」

 魂が抜けたような声で幸村さんが答えた。清水センセがようやくこちらを向いた。

「ありがとうございます……お二人の……おかげです」

 僕は黒い本を閉じ、深々と頭を下げた。二人の大の大人の人生を賭けさせてしまった僕は、これからどうすればいいんだろう? 頭を下げながら、僕は途方に暮れていた。身体はそんなことにはお構い無く勃起し始めていた。それもあまり見せたくない。

「裕くん、頭を上げて。そんなことしないで。でも良かった。ほんとによかった……信じていてくれて……ありがとう」

 幸村さんが早く頭を上げろとばかりに、無言で僕の背中をポンポンと叩いた。僕は写真集で股間を隠しながら身体を起こした。清水センセは祈るように両手を顔の前に組み、そして目を閉じて何かに耐えていた。
 だが、頭を上げた瞬間、僕はもうひとつの桎梏を思い出していた。

「あの……大変言いにくいんですが」
「なに? 裕くん」
「発作が治っても、僕が死神であることは変わらないんで……僕はあなたがたを殺してしまうかも知れません」

 ああ、そうだった。僕は人様に頼ってのうのうとは生きていられないのだ。この二人を無視して生きるのと、死神をやめるのと、いったいどちらが難しいのか。それも今の僕にはまったくわからなかった。

「正直、これから僕はどうすればいいのでしょうか?」

 発作が終わったように、死神も辞職出来るのであれば、僕はそのメカニズムを解明して、必要な行動を取るのだけど。幸村さんが吐き捨てるように言う。

「お前はなんでそこに戻るんだ?」

 だが、生まれる前から母を死なせた僕は、その答えを出せるとは到底思えなかった。