「俺はあの日、お前を殺しかけた…覚えてるだろ? 頸動脈症候群。それに俺はお前の傷をえぐるようなことでお前を追い詰めてた。どうにかしようって思えば思うほど、岡本は壊れてくんだ。表面は平気を装ってたけど、結局俺が岡本を壊している元凶なんだってどっかでわかってたよ。助けようと思った手でうっかり最愛の人間を殺すところだったんだよ。お前が意識が戻らない間の世界が終わるような怖さは二度と忘れられねぇよ。怖くて怖くて後も見ないで帰る途中に、何の因果か清水さんに捕まったんだよ。お互いお前に絶望してたってところだ。わかるよな? その日の先生の言動全部が頭おかしいってわかってても、嫉妬してるのになんか……同情しちまったんだ」
「おかしいのは幸村さんもだよね。この人って……裕くんの発作が起きなくなっても…構わないって…それで…裕くんが救われるなら良いって……幸村さん……君のこと好きで…抱きたいのに……もうどうやって岡本を楽にしてやれるかがわからないって……あんたがあいつを理解しているって言うなら、お願いだからあんたが岡本救ってくれって懇願されて……あと、自殺の屍体は出来るだけ検視でケリつけてくれって……あんたの検視で岡本が助かってるんだって、シラフでそんなこと言ってる人に……嫉妬でブチ切れたままでもいらんないでしょ……」
清水センセは泣きそうな顔で苦笑した。
「その日のあとも、僕と幸村さんは電話やこの家で何度も話しをした。僕にとって幸村さんは、嫉妬もしたけど、それ以上に、裕くんに近づけない苦痛を紛らわせてくれる大事な人になってた。縋るような気持ちでツラい夜に電話してた。何度目かの電話で、僕は……彼に会えたら僕には切り札があるって言ってしまった。でもそれは諸刃の剣だってことも。そしたら幸村さんがそれについて詳しい話をしようと言ってきた。彼をこの家に招いて明け方まで話したよ。その切り札を使って良いなら……いや、使わせろって。でないと、僕はあなたが警部補なのに法医学者と寝てるって言いふらしても良いって」
「脅したんですか」
「脅した。だって……わかるでしょ? 僕の切り札なんてたったひとつだよ。君を本当に殺してあげられる、ただそれだけだって。明らかな殺人予備罪だ。脅すよ、それはね。この人、警部補なんだから」
その時点でその話をしているのかと思うと気が遠くなりそうだった。清水センセの無謀さに。だが、それを許した幸村さんも信じられなかった。この仕事人間がそんな判断をするのかということに。



