僕を止めてください 【小説】





「小さい頃ネグレクトとかされてたんじゃねーの? 今もかもしんないけど」
「ネグレクト…?」
「育児放棄」
「さあ…普通に生活してましたけど」
「お前のフツーは当てにならんわ。小さい頃の記憶っていつ頃からあるよ?」
「そうですね…いつからでしょう」

 最古の記憶を思い出すとか、そもそも小さい頃の記憶を辿ったことがない。

「幼稚園とか保育園とかあるだろ」
「幼稚園は行ってました。制服を覚えてる」
「入園したのは?」
「さあ…でも園の庭で虫拾ってました」
「小学校は?」
「覚えてます。入学式とかも。なんで学校に行くのか不思議でした」
「ちゃんと飯とか食わせてもらってたのか?」
「はい。むしろあまり食べないので、食べろって母親によく言われてたかも」
「お前、いつから生きてるものに興味ないんだ?」
「え? ずっとです」
「ずっと、ねぇ」
「物心ついてから…って言うんですかね、こういうの。生きてるものに興味があったことを覚えてないです、逆に」
「虐待じゃねーのかなぁ。そうだよな…お前恐怖感ないもんな。叩かれてもとっさに顔とかかばわねぇしな」
「そういうもんなんですか。親から叩かれた記憶ないなぁ」
「逆に言えば、叩いてもくれなかった、てか? でもネグレクトの割にはお前身ぎれいだし、礼儀正しいよな…非常識だけど。そっか、科学博物館とか連れてってくれてるしな。ソフビの恐竜とか買ってもらってるしな。母親は普通の人なのかもしんねぇな」
「多分、僕がいろいろ興味がなくて、母親は困ったんじゃないですかね。友達できないとか心配されてたような気がします」
「とすると問題は父親だな」

 なにが問題なのか、僕にはよくわからなかった。