「わかってやれるって、ずっとそう思ってたさ。いつかそういう日が絶対来るって。でも、ダメだった。どうしてもダメだったんだ。わかってるって思ってもいた。でも…わかってなかった」
「それ、わかってたんですか」
その事実に僕は驚いた。驚きで頭が冷めたほど。
「結局……なにをやっても岡本を追い詰めてる」
「それもわかってたんですか?」
「お前のため、は、結局俺のためでもあるんだ。認めたくなかったよ。俺には自信があったんだ。いつか、お前の望みを、本当の幸せを俺が叶えてやれるって。でも、お前がどんどんおかしくなって…自分を切り刻んで…お前は死を望んで……どんなに止めても、殺せって俺に懇願してくるだろ! 俺は怖くなった。いつかお前が本当に…自分を殺すんじゃないかって」
こんな楽観主義者に、こんな弱音を吐かせたのかと思うと、僕は自分の毒に戦いた。自分勝手だと思うが、小島さんと同じことを言って追い詰められた幸村さんを知りたくなかった。僕に自信たっぷりに「お前を落としてやる」などと笑ってる幸村さんが、恐怖を押し殺して平気なふりをしていたなんて知りたくもなかった。
清水センセはソファの後ろに立ち尽くしたまま、うなだれて唇を噛んでいた。確かに僕に謝ることは山ほどになっている気がした。僕に内緒で幸村さんを隣に部屋に隠していたこともそうだし、警察に知られず僕を殺して罪を逃れる計画など、もう僕に会う前から破綻していた。それなのに完全犯罪を目指しているなんて僕に当たり前のように言い切って。それに、彼らはいったいなにをどこまで話して共有しているんだろう? 僕のプライベートな、それこそ清水センセと僕だけしか知らないことや、幸村さんと僕だけしか知らないことを、僕に黙って共有してるんじゃないのか。それはなんのために? この二人は裏でどうなってるんだ?
「清水センセ、立ってないでこっち来て座って下さい。なにを話したんですか?」
清水センセはうなだれたまま、僕の斜め前のソファに力なく座った。溜息をつくと、僕ではなく隣の幸村さんの顔をチラッと見た。苦しげに眉根を寄せて、清水センセは途切れ途切れに僕の問いに答え始めた。
「僕がその夜に、自分の車に引きずり込んで、幸村さんを問い詰めた。裕くんになんてことしてくれたんだ、どんな関係なんだって。問い詰めてるうちに僕と裕くんの関係のことも話さざるを得なくなった。そのうちに僕のことも止まらくなって話してしまってた。どんなふうに君を見初めて、どんなふうに君を探し回ったかって…ね」



