僕が雪の夜にコインランドリーから帰る時に気がついたそのことが、本人の口から詳細に語られていた。

「何かの間違いだと思った。そう思いたかったよ。現場の幸村さんは優秀で、僕はその的確な捜査の手腕にいつも敬服してた。検視の時も僕の意見をちゃんと信頼してくれて……良い捜査官だって尊敬するほどだったのに……」
「ああ、そのとおりだ。その優秀な俺さまのせいでこいつは自殺の屍体から逃げられなくなって……うちの管轄の検挙率は上がるし、上司の評価も上々、司法解剖の件数も増えて、そんな中で岡本は……だんだんおかしくなって……自分の身体を切り刻むようになってった。俺はお前を抱いて、お前が本当に気持ち良くなれたら何かが変わるって信じてたんだ……岡本が変わろうと藻掻いているのは感じてたさ。でも……藻掻けば藻掻くほど岡本は自分を追い詰めていって、俺の確信は少しづつ削り取られてった…メスを取り上げたらお前はカッターで自傷してた。俺を呼べって何度言っても、お前は自分が死神だって言い張って俺を排除する。挙句の果てに、俺を死なせないためにとか言って、抱いたヤツをナイフで切り刻むようなドSとワンナイトまでしやがって……誰かに自分を殺させかねないお前が怖くて…どうしていいかわからない時間が増えてった。あの夜だって、どうにかしてお前のトラウマの手掛かりを掴みたいばっかりに、お前の過去のこと聞かせろって強引に約束させて…」
「ワンナイトって…? 裕くん、そんなことしてたの!?」

 清水センセが初めて聞く話に驚いたように聞き咎めた。

「ええ、後腐れなく知らない人に抜いてもらおうって…」
「そんなことしないでよ……」

 清水センセが悲しげな顔で首を横に振り、震えた息を吐いた。

「ほんとだぜ。愕然としたわ、あん時は。全部無駄だったけどな! このバカはドSのイカれたナイフ野郎に散々弄ばれた挙句、体中切り刻まれて、発作が全く治まんないまんま帰ってきやがって…チッ…」

 幸村さんは舌打ちすると、力なく僕の横に腰を下ろした。平気な顔をして、強引なことしかしなかったのに。幸村さんの口からこんな本音が出てくるなんて1mmも思っても見なかった。