何が起きているのかわからない。幸村さんと清水センセが僕の前に並んで立っている。僕がずっと恐れていた事態が、この部屋で、しかも当の清水センセによって実現されている。すべての不安と危惧が一気に襲って来た。計画がバレた?それならもう完全犯罪は不可能だ。だが、なぜこのタイミングで? それに「僕が呼んだ」ってどういうこと?

「なんで……なんでここに…なんで幸村さんを呼ぶの?」
「ごめん裕くん……今まで何も言えなくて」
「どういうことなんですか!? 幸村さんいつから……いつからそこにいたんですか!?」
「岡本が来る前に来てた」
「ずっとその部屋に居たってこと?」
「ああ。見えなかっただろ? ドアの後ろはそこから死角だしな」

 ではこれは幸村さんが僕を尾行して勝手に清水宅まで来たわけじゃないんだろう。そうすると、幸村さんに脅されて清水センセが不本意にもここに呼んだのか、それとも逆に清水センセが幸村さんを脅迫してここに呼びつけてるのか、そうじゃなければこの二人はお互いに利害の一致で共謀してるのか? 実は二人は陰で付き合っててそれをカミングアウトしにきたのか?
 ただ、確実なのは幸村さんはこの実験の一部始終をとなりで聞いていたということだろう。会話を聞かれてた……僕らはこの部屋であの話をしただろうか? 清水センセが僕を殺すことを。言った気もする。匂わせただけで言わなかった気もする! ああ、頭の中がぐるぐるしている。でもそれならなぜ、清水センセが幸村さんを呼ぶの?

「まさか…清水センセを…どうするの?」
「どうもしないさ。俺は実験の結果を見に来た。それと、最悪の事態に備えてここにいる、それだけだ」

 最悪の事態とは、清水センセが僕を殺すこと、だろう。僕は引き攣った顔で清水センセを振り返った。そして僕を見下ろしている幸村さんに取りすがった。

「違うんだ! 僕が殺してって頼んだんだ! まだなにも起きてない! こんな…こんなのなんの犯罪にもならないでしょう?」

 それを聞いた清水センセが幸村さんの後ろから慌てて僕を取りなした。目も合わせずに。

「大丈夫。大丈夫なんだ裕くん。逮捕なんてされたりしないから。来てもらったんだよ……裕くんのために」
「僕のため?」
「落ち着け。俺がここに居るのはお互いの結論だ。勘違いするなよ? 最悪の事態ってのは、実験とかいうヤツが失敗して、お前の発作がなにをしても終わらないって事態だろ」
「それに僕が君の発作を見て、最悪パニックになって使い物にならなくなるってことも考えた」
「今日のこと、幸村さんに話したんですか!」

 そんなありえないことが起きるのか!? だが幸村さんは今日ここで何が行われるか知っている口ぶりだった。この二人はすでに何かを共有している。それもこの雰囲気はごく最近じゃないじゃない。もっと前から……じゃあ、いつから?