僕を止めてください 【小説】



 同じだった。
 あの日と全く同じ。
 それに感動した。恐怖よりも先に。
 おもむろに次のページをめくる。
 前書きもなく、目次(Contents)。

 Contents        002

 #1 17 May 1979     004
 #2 2 Nov 1979     006
 #3 6 Feb 1980     008
 #4 15 Apr 1981     010……
  
   …………       

 洋書だから、上から下に横書きで各々の写真に振ってあるNo.と日付。
 ヨーロッパの表記法。日・月・年、の順の日付。
 その横に離れてページ数。それだけ。
 なぜならこれらは、作品ではないからだ。
 警察の現場の写真には、題名はない。
     
 そして、僕は、そのページをめくった。





 おかえり





 吊るされた縊死の屍体が囁いた、ような気がした
 その声は少しだけ、佳彦の声に似ていた
 僕はその声に答えていた




 ただいま




 変わらない。無音のモノクロの世界
 変わらない。何一つ、変わらない
 真っ白い太いロープも、吹き抜けの階段と、その斜めの手すりも




 時間が止まったみたいだった。気が遠くなりそうで、僕は目を閉じて天井を仰いだ。脱力した身体は、ソファの背もたれに沈んでいった。そして、直後にやってくるはずの下腹部の衝動に備えた。少なくとも、寺岡さんの部屋ではそうだった。

 1秒、2秒、3秒、4秒、5秒……10秒……10秒?
 
 20秒……30秒……



 来ない。
 来るはずのものが、来ない。



「あ…」

 まさか。僕は目を見開いた。