堪らずにベッドの上で頭を抱えた。ダンゴムシのようだ。脳内に渦巻く焦燥と切迫感。迎えに来た清水センセの顔をどうやって見たら良いのだろう。これからの僕の行為や言動で傷ついた誰かが自死を選ぶ可能性で頭の中がいっぱいになっていく。あの時の靴の音がする。いや、あれは水の音? 便器に顔を突っ込んで小島さんが吐いている。寺岡さんがフランスに渡りエイズになりたいと言う。トミさんが曲がりくねった林道でアクセルを踏み込む。その靴は死に向かって容易に走り出せる。靴を脱ぎ捨て裸足で僕からちゃんと逃げた佳彦は今どうしてるだろう? 僕へのリベンジポルノで溜飲は下がったのだろうか? でも、もしもその狂気が抑えられなかったら? 欲望の鍵が壊れてしまってもしも僕と同じような死にたい男の子を見つけて殺してしまっていたら? 彼は自死はしない。だが極刑には成り得る。僕を産む前に死んだ母、僕の誕生日に死んだ父。実験が成功しようが失敗しようが、僕が死神をやめられるわけではないのだ。今から行うこの実験に意味はあるのか? 止めどなくネガティブな思考が溢れてくる。彼らはなぜ僕に関わるのか? 叫んでしまいそうな混沌が襲ってくる。殺して欲しい。今すぐあなたに僕を。この世からいなくなればいい。なぜそれが叶わないのか?!

「ころせ…ころせ…ころせ、殺せ、殺せ、殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ!殺せ!殺せ!!」

 その時電話が鳴った。受話器に向かって自動的に僕は懇願していた。

「殺して下さい…先生…殺して下さい」
「裕くん? どうしたの? 裕くん?!」

 思いも掛けない優しい声。その声に僕は縋り付いた。

「も……ごめんなさい…なんか…」
「下まで来てるよ! 出てこれる? なんかあったの?!」
「え…あ…あの……」
「待ってて、僕、部屋まで行くから! 電話切らないで!」
「すみません…すみません…」

 何が起きたわけでもない。ただただ爆発した妄想と過去のトラウマ、それは杞憂? いや、だって事実なんだよ。電話の向こうはエントランスに着いたらしく、響く足音がしている。

「今、エレベーター乗ったよ。大丈夫?」
「…あの……もう…ダメなんです…見捨てて下さい…僕のこと」
「わかるよ。わかる。僕もそうだ、昨日から怖くて震えてるよ」

 清水センセ、それはどんな意味ですか。幸村さんに勝てないかも知れないからですか? 僕は言えるはずのない問いを頭の中で尋ねた。電話の向こうではチンという音がして、エレベーターがこの階に着いたことがわかった。

「待って、大丈夫だから」

 あなたはだいじょうぶじゃない。だれもだいじょうぶなんかじゃないんだ。

「信じ…ない…」

 ピンポン。チャイムが鳴った。