「なんなんだろうなぁ…フツーは見た目だけで入れ込むことねぇんだけどなぁ…多分アレだな…首絞めただけでイクって子、初めてだったからかもなぁ。調教しがいのあるドMの子だと思ったんだけどなぁー」
小島さんは赤信号でハンドルにもたれかかり、またタメ息をついた。小島さんはタメ息が多い。
「俺が間違ってた。俺が生きてるってだけで興味の外だときたもんだ。参るよ。俺がお前に惚れてもらうには、首でも吊んねぇとその可能性もねぇんだろ?」
なんか誰かが同じこと言ってた気がした。
「いずれ、お前をほんとに好きになってどうしようもなくなったヤツは、マジで首吊るかもな。それしか愛される目がねぇとしたら…そしたらお前、どうするよ? お前に愛されたくて、誰か自殺したらさ」
小島さんは僕を横目で見た。
「そしたらお前、その屍体見てさっきみたいに欲情して狂うのか?」
「僕なんか相手にそんな選択する人いますか?」
「俺が吊ったら?」
「ええ…?」
「俺がお前に本気で愛されたくて、お前の前で天井からぶらさがってたら?」
「そんな選択…するんですか?」
「例えばだよ。例えば」
「実際にその状況になってみないと…わからないと思います」
「当たり前なこと言ってんなよ。想像しろよ」
「想像ですか…あまりしたことがないんで」
「とことん普通じゃねぇな、お前は」
「ええ。それに愛されたいっていうのが実感としてよくわからないので、それも難問ですね」
「ああ…そっか…お前は永遠の片想い人間だったっけな。どうすればその歳でそんなに充足してられるんだろうな、おい」
「充足? なにが充足してるんですか?」
「愛だよ、愛情だよ。お前、よっぽど親から愛されて育ったのか? …いや、そんな育てられ方してたら愛し愛されるってこと十分知ってるはずだよな…」
そう言うと、小島さんはいきなり押し黙った。



