「どうすればいいですかね? 僕は」
「どういう意味?」

 清水センセは急に僕を問い詰めるような言い方をした。責められているとでも思ったんだろう。

「先生が落ち着くために出来ることがあれば言って下さい、という意味です」
「あっ…ごめん。心配してくれたんだ」
「ええ、ずいぶん混乱してるみたいなので。あ、ちゃんと頓服とか飲みました?」
「飲んでない」

 今度は質問に答えた。パニクっているのならソラナックスを飲めばいいのに、と思ったが、いや、ちょっと待て…と考えなおした。もしかしたらこれは薬の離脱症状という可能性もあるなと。離脱症状とは長期服用していた薬をいきなりやめるとか、依存性のある薬物などの反復使用を中止することから起こる病的な症状のことで、ソラナックスを含むベンゾジアゼピン系の薬剤はこの傾向が強い。

「気が付かなかった。そっか…飲んでないのか」
「忘れてたんですか?」
「忘れてた」
「飲んできて下さい。少しは落ち着くんじゃないですか?」
「そうする。一度電話切るね」
「はい」

 清水センセからの通話が切れた。僕はその間、ソラナックスの離脱症状をググった。“ベンゾジアゼピン離脱症状”でわかりやすいサイトがヒットした。《精神症状:イライラ、焦燥感、易興奮性、不眠、悪夢、他の睡眠障害、不安の増大、パニック発作、広場恐怖、社会恐怖、知覚変容、離人感、非現実感、幻覚、錯覚、抑うつ、強迫観念、妄想的思考、激怒、攻撃性、過敏性、記憶力・集中力の低下、侵入記憶…》など。身体症状についても、振戦、脱力、頭痛など、これも長いリストが上がっていた。これを見て、清水センセの異常行動の大半がこの離脱症状で説明が着く気がするほどだった。パニックを起こし、僕のマンションに来て泣き喚いた時も離脱症状だったってこともありえる。

 僕の求めていた情報、離人感・非現実感は明確に書かれていた。夢と現実の区別がつかなくなる。「…離人感・非現実感は、ベンゾジアゼピン離脱時に起きる可能性がある。通常、高力価のベンゾジアゼピンの急な離脱で起きる場合が多い…」。つまり、服用量の多いところから急にやめると出やすいというわけだ。