僕を止めてください 【小説】





 僕の熱は、小島さん…隆の“どうしていいかわかんねぇ”に紛れてどこかに消えていった。母親が何故か僕を日常の静寂なる死に引き戻してくれるのと多分違う方法で、隆は僕の熱をうやむやにしてくれるように思えた。松田さんと違ってそこには“生かして殺す”ようなマッチポンプな仕組みがない。ちなみにマッチポンプというのは『マッチで自ら火事を起こして煽り、それを自らポンプで消す』というとても偽善的な行為のことだと隆が教えてくれた。

「…つまり松田はお前のことをわざわざ墓の中から殺すために起こしたくせに、自分がさもお前に必要な顔して抱いてたんだろ?」
「墓の中っていうのも自覚なかったですよ。起こされてから死んでたんだって認識出来たんですから」
「俺だってやろうと思えばそうできるんだぜ。実際やっちまいたくてウズウズするんだけどな」
「なんでやらないんですか? 今日はそれをするんだって言ってたのに」

 結局、小島さんは僕を犯すこともなく、助手席に僕を乗せてどこへ行くともなく車を走らせていた。