僕を止めてください 【小説】



「嬉しいな。君の声がする」
「それで気分が良くなるんでしたら、簡単で良いです」
「言ったでしょ、簡単だって」
「そういうことですか」
「うん。まだ乾燥機終わらないの?」
「ちょっと待って下さい、確認しますので」

 言われて、携帯を見ると、あと15分くらいになっていた。雪を踏む足音がして振り返ると、ベンチコートを着た若い学生風の男子がコインランドリーに入っていった。その男子が例の洗濯物を引っ張りだした本人かどうか確認したくなり、携帯を耳に着けたままそっとコインランドリーの前に戻った。

「あと15分くらいです」
「15分もまだ話せるんだ。ラッキー」

 ガラス戸越しに中を覗くと、例のカートからベンチコートの男子がビニール袋に僕の出した洗濯物を慣れた感じで詰めている。乾燥機から出されるのにも慣れてるようだった。僕はホッとして、気づかれないようにまたさっきの場所まで戻った。

「まぁ、本も持たずに出てきたので、いい時間つぶしです」
「そんなら良かったよ。ほんとタイミング良かったんだね」
「どっかから見てるんじゃないですか?」

 清水センセならそれくらいのことはしそうだ。

「さすがに今は家に居るよ」
「白いプリウスが近くに停まってる気がしますけど」
「リビングの写メでも撮って送ろうか?」
「いいです。別にどっちでもいいです」

 その程度のことでいまさら清水センセの評価が変わることもない。

「いいんだ」
「ええ、それくらいのことでは驚きません」
「わかってくれてるね」
「ええ、まあ、さすがに」
「なんとも…申し訳ないけど」

 いきなりテレビか何かのニュースの声が電話越しに聞こえた。

「居間でNHKのニュースつけた。8時45分のやつ。これで信じてくれる? 僕の車はテレビないし」
「ええ、まぁ、はい」

 電話の向こうの男性アナウンサーの声が急に消えた。本当に居間に居るのだろう。

「良かった、証明できて」
「もういいですよ」
「実際、君に会える前はそんなことしてた」
「……してたんですか」
「すいません」
「なにしてたんですか?」
「えーっと…あの…ただのストーカー、かな」
「はぁ、ただのストーカーね」
「そう、大学の駐輪所の斜め前の道に隠れてて、君が出てくるまで待ってて、君の自転車の跡を車でつけて、君がマンションのエントランスに入っていくところを見てるっていう感じ」
「マジですか。まぁ、驚かないと言いながら、実際言われると多少驚くというか、呆れるというか」
「だよね……」
「やっぱりなぁとは思いますが、事実ってパンチ力あるなぁって改めて」
「今更隠してもしょうがないし。土日は体力に余裕のあるときしか行けなかったけど」
「土日まで?」
「うん。と言っても、裕くんって自宅と大学とスーパー丸屋で行動範囲が閉じるから、駐輪所の自転車を確認すれば行き先はほぼ確なんだけどね。だから今日のコインランドリーはびっくりしてるし、なんか新鮮で興奮する」

 全く同じことを過去に言われた気がする。良くないデジャヴのようなものを感じ、軽くクラっとした。