僕を止めてください 【小説】




 なぜこんなに怒っているのか、はっきりとはわからなかった。でも松田さんもこんな風に怒っていた。母親も途中で切れたし、僕は人を怒らせる性格なのかも知れない。

「お前にのめり込んだら…不幸だよ…俺、こんな年端もいかねぇ子にこんな暴言吐いて…大人げねぇだろ? そう思わん?」
「さあ…わかりません…」
「お前はなんなんだよ…俺はお前のなんなんだよ」

 だんだん言葉の勢いがなくなってきたようだった。そして小島さんは小さく呟いた。

「お前のオヤジじゃねぇんだぞ…裕…」

 そう言うと小島さんは僕の身体を抱きしめた。

「裕…俺こんな、どうしていいかわかんねーの…久しぶりだ」
「…僕は…ずっとです…小島さん」
「小島さんってもう言うな」
「じゃあ…なんて」
「隆って呼べよ」
「小島さん、たかしって言うんですか」
「またしばらく覚えねぇんだろうな、お前は」
「すみません…期待しないで下さい」
「あとで携帯に登録しとけよ」

 小島さん…隆はタメ息をついた。

「毎回、会ってキレんのかな俺…そういえばお前、苗字なんていうの?」
「岡本ですけど」
「いや、知らんかったわ…松田教えてくれなかったんだっけ。いや、俺が聞かなかったんだっけ。あん時はどうでもいいって思ってたもんな…くだらない遊びに付き合わされて…ってよ」

 そう言いながら、僕の顔に落としたメガネを片手で器用に掛けた。

「似合うな…大人っぽくなるな。期待もなんにもしてなかったのに、お前の見た目が俺のツボでさ。参ったわ。俺でも落としてイカせられた時の松田の顔見て…正直“もらった”って思ったしな。でも…今となっちゃ松田の気持ちがほんとにわかる。ひどいやつだな、お前」

 そう言って僕の額を指でつついたあと、隆はじっと僕の顔を見ていた。でも僕はこの人に助けられてるんじゃないか? 僕はそんなことを初めて思った。