僕を止めてください 【小説】



「また来てくれるのかな…」

 マンションに近づいてくると、清水センセは“次の予定”の話をした。この時点で僕は自分がいつ清水センセに連絡できるのか全くわからなかったが。

「行くことになると思います」
「それなら良かった。実験出来そうになったら連絡して。それまでに僕も心の準備が出来てたら実行に移そう」
「はい、そうします。ただ、心の準備の前に自殺屍体の解剖が偶然入るかも知れませんが」
「そうか、その可能性はあるかもね。いきなり本番ってことか。その時は連絡して欲しい。絶対に」
「そうですね。その時は連絡します」
「絶対だよ。すぐ迎えに行くからね」
「はい」
「その時間に僕に緊急のオペが入らないことを願うよ」

 何故か察しの良い幸村警部補の訪問と清水センセのお迎えはどちらが早いだろうか。もしかして僕のマンションのエントランスで鉢合わせなんてことがあってもおかしくない……修羅場だ。その場合どうすれば良いのだろうか? そうなる可能性を回避する方法を早急に考えなくてはならない。幸村さんとのことを言わないで回避するのは簡単ではないだろう。しかし、前回の上映会の後、なぜか彼はこう言った。「幸村さんじゃ、ダメだよ」と。あの清水センセの言葉はなんだったのだろうか。肉体関係のことを知られてるのかどうなのか、訊くのが恐ろしくて記憶から消していた感がある。最悪、佐伯陸がバラしている可能性もある。今回の会談では幸村さんについて清水センセは一言も触れなかった。それもまた不気味だ。
 信号待ちの時間、多少不機嫌そうに清水センセが呟く。

「ああ、もう君んちだね」
「いろいろ、お世話になりました」
「良いんだよ、楽しかった。人生で一番楽しい日だった」
「あんなこと言わされたのに、ですか?」
「そう、あんなこと言わされたのに、だよね。だって裕くん、君こそ、あんな動画僕に見せられてさ、なんで僕とまた会ってくれるの?」
「あなたが僕を殺してくれるって言ったからです」
「僕も君が好きだから何言わされても構わないんだ」