「結構目立つのかな? 自分の背中だから見れなくてさ。受傷直後の画像は見せてもらったけど、レーザー治療のお陰で治っても拘縮しなかったんでそのまま放っておいてる。右肩関節のROMにも問題なし」
ROMとは“Range Of Motion”、関節可動域のことだ。『10年ROMってろ』のROMではない。関節が柔軟に動けばROMは問題なし。角度や方向によって運動制限があればROM制限あり、などとカルテに書かれる。ROM制限を引き起こす原因として、疼痛、拘縮、筋収縮、脱臼、関節内遊離体など様々なものがあるが、外傷の瘢痕が関節のROM制限になることもある。清水センセの擦過銃創は肩関節に影響の出る場所だったので、瘢痕化しないようにレーザーで治療してくれたということになる。
「まだピンク色ではっきり見えます。確かにケロイドにも瘢痕拘縮にもなってませんね。3年位前ですか?」
「それくらいになるかなぁ」
「トラウマですよね、そんな珍しい経験」
自分もトラウマだらけだが、清水センセも相当の遭遇率である。
「それがそんなになってない、んだろうなぁ」
「そうなんですか?」
「映画とかドラマの銃撃シーンとかもPTSDも出ないしねぇ。フラッシュバックもないし。多分、犯人の顔も撃ってるところも見えないまま、いつの間にか撃たれてたから、恐怖心が出るヒマがなかったっていうか、傷も血もその時ははっきり見えてないしね」
「パニックにはなったんですよね?」
「何が起きてるかわからなくてパニクってるんで、戦慄した感覚じゃないんだ。混乱っていうかさ」
「そういうもんなんですね」
「僕はね。近くで撃たれたり、犯人の顔をハッキリ見てたら、かなり残ったかも。あと、死んでもいいかなって、どっか思ってたからかな、あの頃は。逆に死ななかったことの解釈に困ったというか…こんな状態で生きてることの意味ってあるのかって思ってたから。今ならはっきりとわかるけどね」
そして、なにかに気がついたように僕に言った。
「あ、ちなみにこの銃弾は一般的な9mmパラベラム弾」
「日本の警察と同じ口径ですね、9mmパラベラムの方が威力が高いですけど」
「朝ごはん抜きでいい?」
銃弾の話と同じ口調で全く違うカテゴリーの質問が投げられた。
「あ、ええ、僕はかまいません」
「昨日の今日で、さすがに食欲がなくてさ」



