寝室に戻り、昨日脱いだ服を着終わる頃には、清水センセは頭を乾かし終わったのか、トランクスの上にバスタオルを羽織って寝室に入ってきた。着替えをしにきたようだった。ベッドに腰掛けている僕を見てまたちょっと驚いたような顔をする。

「本当に朝起きたら君が居るんだね」
「はい」
「おはよう」
「おはようございます」
「朝ごはん食べる?」
「どちらでも」

 清水センセは僕に背を向けてクローゼットの中をゴソゴソし、次々と着替えを床に積んでいった。その動きでバスタオルが肩からスルッと床に落ちると、その右の肩甲骨から肩の方向にかけて、濃いピンク色の彗星が尾を引いたような10cmくらいの創傷があった。この色だとそんなに古くない傷のように見える。肌が白いのでその色は目立った。

「シャワー浴びてた。昨日そのまま寝ちゃったから。寒い寒い」

 清水センセは僕に背を向けたまま急いで厚手の茶色のズボンを穿き、長袖Tシャツを手に取った。それを着る前に僕は彗星状の傷について質問した。

「背中の傷、何ですか?」
「ああ、見えた? 何だと思う?」
「近くで見てもいいですか?」
「え…良いけど…」

 珍しい傷だ。擦過傷に似ているが輪郭がはっきりしている。えぐられているのにそれほど深くない。生きている人間の背中をこんなに近接で観察したのは、殺し屋の穂苅さんの背中に彫ってあった暁斎の髑髏以来だろう。傷を間近で眺めていると、いつの間にか清水センセの顔が真っ赤になっていた。

「ゆ…裕くん…近い」

 清水センセらしからぬ発言に違和感を覚えつつ、見慣れない傷跡を観察しながら答えた。

「先生から抱きしめられた時のほうが0距離でフルコンタクトだったんですが」
「いや、あの……君に…裸をマジマジと見られるのって…照れるな…」
「僕以外の人にマジマジ見られても照れないのでしたら」
「うん…照れない」
「で、これはなんですか? どこかで見たような気もするんですが。火傷みたいだけど…こんなところに火傷するシチュエーションってなんでしょうか。擦過傷ですかね? 擦過にしては深いし。あれ? まさか…銃創?」
「当たり。さすがだね、裕くん」

 今度は僕がびっくりした。一体なにがあったんだ?