僕を止めてください 【小説】





「僕も松田さんもその時まで言葉にはなってなかったんです、多分。でも、二人で同じ写真集見て、二人で違うもの指さして、初めて知ったんです。僕達、自分の好きなものにしか欲情しないって。そういう生理的な嗜好で、そういう匂いを嗅ぎ分けちゃうんだって…」
「嘘だろ…おい…」
「松田さんもそう言ってた…でも、自分が好きなものがほんとにそれなんだって気づいて、すごくショックを受けてるように見えた…でも僕は知ってたんです。佳彦が本気で僕を殺したかったのを」
「…そこにつながるのか…その話は…」
「だから…あの井戸の底の二人は……心中です…自殺なんです…わかってもらえましたか?」

 最後は少し声が震えた。また感じ始めていたから。あの二人の沈黙を。

「う…っ…」

 僕は身を固くした。小島さんの脚の間で両手で膝を抱えてその上に顔を伏せた。メガネが外れそうになったが、掛け直す余裕はなかった。

「信じねぇ」
 
 その時、僕はいきなり後頭部の髪の毛を鷲掴みにされた。伏せた頭がグイッと引っ張りあげられて、無理やり小島さんは僕の顔を自分の方に向かせた。メガネが外れて僕の足元に落ちた。