「3年でそのクラス替えになって、新学期の1日目フラフラになって帰ってきてさぁ、1人だけしゃべれた子とも離れ離れでものすごく絶望感があって、その日もいつもの通り、自分の部屋に直行してベッドに倒れこんで。ものすごく疲れてたんだよねぇ。そしたら、しばらくして母がそっと部屋に入ってきた」
脱線ではなかった。清水センセのいつもの前置きだった。話しながら饒舌になりかけた清水センセの声が、囁くようなかすれた声になっていった。
「寝たフリしてると、母親が僕の顔を覗きこんでんだよねぇ。そしたらさぁ、ズボンが下ろされたの。えっ? って思うじゃない? そしたらさ、パンツも下ろしたんだよね。もうさ、怖くなっちゃってさ、目も開けらんないで言ったの。『僕、おねしょしてないよ』って。そしたらさぁ、『知ってるから、黙ってなさい』って。低い声で耳元で囁くんだよねぇ。怒らせると怖いからさぁ、黙るしかないでしょ。でさぁ、そっからいきなりだよ。アレ咥えられた。もう、びっくりして、も、『汚いからダメ』って、身体丸めて、言ってもさぁ、母親は『いいの。黙ってなさい。気持ちよくなるから』って。それからのことはよく覚えてない。このことは誰にも言っちゃダメ、と言われたのだけは覚えてる。でもそれ1回じゃ済まなかった。その日から、どれくらいの頻度か覚えてないけど、ずっと続いたよね」
「ひどいですね」
思ったことがそのまま思わず口から出た。
「言いなりだったね。元々、怖くて逆らえなかったから。犯される前からずっと過保護で過干渉で、悪い影響があるとかで好きに友達も作らせてもらえなかった。幼稚園の頃は悪ガキなんかと遊んでるのなんて言語道断で、そのあと監禁されてた。殴られたりはしなかったけど。じゃあ悪ガキじゃなければいいかっていうと、女の子と話してるのもだめ。今考えればあれは母の嫉妬だったのかな。でも他の家のことは知らないから、そういうもんだと思ってた。そのうち近所やクラスの子から、あそこのうちの子と遊ぶと大変だって無視されるようになってた。僕をいじめると母がものすごい剣幕で怒鳴りこんでいくから、いじめられはしないけど、みんな無視。それで一人遊びが上手になってったね。だから感情や挙動を失った生きてないものがどんどん好きになっていった。僕に反応する人たちと仲良くしたらどうせ母親に排斥されて嫌な思いをして居なくなってしまう。皆にも申し訳なかったし、そういうことがあるたびに母親に恨みがつのるし、だったら、僕に反応しない、母親の気にならないものを愛でようって、虫の死骸とか、カエルの死骸とか、集めたり拾ったりしてた。母に見つかると怒られて捨てられてたよ。遊ぶ友達が居ないからいつも図書館とか、自分の部屋で本や漫画を読んでた。母の言うことを聞いてると猫かわいがりしてくれる優しい母、気に入らないと激怒する母が交代で現れて、どうしていいかわからずに、母親の顔色を伺って、甘えるふりだけ上手くなってた。でも、それでも母親のことは好きだったんだ……犯される前までは」



