清水センセは半開きの口のまま、自分の言ったことに半ば呆然となっていた。
「は……言っちゃったよ……マジかぁ……」
「すみませんでした。もう……もう無理……しないで下さい」
一気にのしかかってくる罪悪感に僕はその場で負けていた。この際、負けたほうが良いと思った。
「とりあえず、言えたことは評価する……自分を」
「ならいいんですが、これ以上は」
「すごいなぁ、生きてる人間に興味のない君が同情してくれてるの?」
「ええ、さすがに」
とはいえ、なにを言っていいか、それ以上掛ける言葉が見つからない。あの時は非道いと思った佐伯陸の母親がちょっとだけマシに見えてくる。
「ほんと? すごいな…じゃあ、もっと話せば、もっと興味持ってくれる?」
「え…それ、大丈夫なんですか?」
「いやさぁ、いま、なにがなんだかよくわかんないし。どうせ力が入んないから君の実験は今は出来ないよ。どのみち話せるのは薬が効いてる間の期間限定だから」
「ソラナックスってこんな風になるんですか」
「さあ、知らない。プラセボでもいいじゃない? これ、短時間しか効かないしさ」
そう言うと清水センセは呼吸することを思い出したように、大きく息を吸って、大きい溜息みたいに吐いた。
「前はもっと強いのも飲んでるから、これくらいは大丈夫だよ。もともと僕はそんなに身体が丈夫じゃなくてさぁ、小さい頃からすぐ疲れてダウンしたり、よく熱を出したりして、すぐ病院。薬もよく飲まされてた。こうやってぐったりしてると、なんかその頃のことを思い出すよ。小学校の頃は学校から帰ると、疲れて1時間くらい昼寝してた。人見知りで引っ込み思案だったから、学校ってさぁ、沢山いるじゃないクラスメイト。自分の好き嫌いに関わらず地域が一緒ってだけで狭っ苦しい箱の中に詰め込まれるってさぁ、どう思う? こっちは知らない人とコミュニケーション取るだけで、いっぱいいっぱいなんだよ。それもたった2年でクラス替えしやがって……ようやく慣れたなぁって思ったら殆どメンバー取っ替えられて、またその日から0から関係値積まなきゃなんないって、ほぼほぼ賽の河原じゃない?」
自分に全く興味のなかったことを訊かれてもよくわからなかった。だが、一旦話し始めると、意外にも彼の饒舌さが戻ってき始めていた。しかしこの小学校のエピソードってどういう脱線なんだろうか? このまま母親の話をしないで終わる可能性もあるな、と思ったが、僕の相槌も待たずに、清水センセの話は続いて行った。



