「随分と関わったんだね、興味もないはずの生きている人たちと、君は。たぶん思いも掛けず深くまでね。あの日の中学生の君とは違うっていうのはよくわかったよ。優しすぎるゆえに理解しようとしたってこともよくわかった。それと同じように僕のこともこんなに優しく考えてくれるんだ、きっと……そうだね、屍体に意志なんかないから。たったひとつの君の願いは“死とその静寂”それだけなんだから。でもそれは見失われてしまった。君は見失ったまま、生者のフリをしてここまで生きてきたって言ったよね。関わってきた誰かしら大勢のために。それは大変な努力と諦めの日々だったんじゃないかな…って思うとね…深い傷を抱えて、それでもこうやって真面目に社会に関わって生きてきた君を思うと……切なくてなんか泣いちゃった。参るよ」

 自分の葛藤が他人の口から整然と語られるのを聞いているうちに、なぜか嘲笑と震えが鳴りを潜めていった。清水センセがどうやって理解するのかわからないが、こんな気持ちは寺岡さんに共感覚の分析をされたとき以来だろう。僕が慄きながら自分を嘲笑っているのに、それを彼が同情し嗚咽するほど悲しんでいる。それっていうのは彼が僕よりも僕を肯定的に理解しているということだろう。一歩先回りされているような僅かな悔しさはすぐさま自嘲に変わった。

「真面目じゃありませんよ。屍体に寄っかかってどうにか日々をしのいでる穀潰しですから」
「口が悪いな」
「事実です」

 それを聞くと清水センセは苦笑した。

「裕くんは案外、皮肉の効いたことを言うよね。辛辣」
「事実って人によっては辛辣に聞こえるようですね。よく言われます」
「優しいのにな。ツンデレかな」

 またツンデレと言われた。みな、僕の何を基準にそれを判断するんだろうかと訝しく思う。

「さて、と。どうしようかな。僕はどうすればいいんだろうか。整理すると、裕くんは『殺してほしいけれど、それは現実的な選択ではないから、殺される可能性だけ残して今まで通り頑張ってみる。もしかしたら頑張れるかも知れない』、という感じの理解でいいのかな? 間違ってたら訂正して」

 まさに簡潔に言うとそういうことなので、僕の要領を得ない話をよくこんな風にまとめられたな、と感心した。