プリウスは無事に清水邸に到着し、再び、僕は清水センセの家の居間のソファに座っていた。キッチンでチンという音がした。清水センセが湯気の立った何かと缶ビールをトレーに乗せて戻って来た。

「結局今日もチャーハンなんだ。◯◯駅と大学の間に餃子の松華川ってあるの知ってる?」
「消火栓? 消防署の食堂ですか?」
「面白いこと言うね。いやさ、松の木の松に中華の華に川で松華川。中国の川の名前らしいよ」
「いえ、知りません」
「この前言った美味しい中華の店なんだけどさ。餃子より僕はチャーハンの方が美味しいって思ってる餃子屋さん。僕が餃子に興味がないだけで、水餃子の名店でね……確かに消火栓だね。あの時はここに行こうってほんとに思ってたんだよ。どうしようもなくなって通り過ぎちゃったけど。あ、水持ってくるね。消火栓だから水ってわけじゃないよ」

 変な言い訳のあとであの時と同じピッチャ―とグラスが前に置かれた。自分で注いで一口飲んだ。清水センセはプシュと缶の栓を開け、これはノンアルコールだから、と僕にわざわざ断った。

「だって、裕くんの前では酔っ払えないからさ。どうせ弱いし。あぁ…もう9時過ぎてるじゃん。時間が経つの早すぎるって」

 酔っていてもあまり変わりはないだろうと傍から見ていて思うが、本人は気がついていないのかも知れない。清水センセは前と同じでむしゃむしゃとチャーハンを食べている。緊張感と食欲は別物らしい。
 食事が終わり、ゴミをキッチンに片付けたあと、清水センセはマグカップのコーヒーを持って居間に帰ってきた。薪ストーブがパチパチいっている。前回と同じ位置に二人で座った。話し合う前の変な緊張でしばらく互いに目も見れないでいたが、そのうち清水センセは口の重い僕をチラッと見ると、自分から切り出した。

「話があるんだよね?」
「はい」
「聞かせて欲しいんだけど」
「……そうですよね。すみません」

 僕はうつむいたまま話し始めた。