ここはどこなんだろうという疑問符で目が覚めた。平らなところで寝ていないことに気づく。誰かの腕の中に居る。後ろ抱きにされて、誰かに寄りかかっている。僕のみぞおちの辺りにある大きな手に触ってみた。
「起きたな」
「ここ…どこ…」
「俺の車の中だよ。大丈夫かおい」
あ。そうだった。
「…忘れてた」
「ああ、おい裕、もう絞め落ちるのやめろよ」
「なんでですか?」
「落ちグセがつくんだぞ、こういうの。落ちるまでの時間がどんどん短くなるんだってよ」
「そうなんですか…簡単になっていいんじゃないですか?」
「お前なぁ…万が一後遺症とか出たらどうすんだよ」
「なってから考えます」
小島さんの両足の間に座らされていた。僕は上半身を小島さんに預けてずっとこのまま抱かれていたみたいだ。
「なんで、小島さん座椅子になってくれてるんですか?」
「犯そうかどうしようか悩んでるうちにこの姿勢で落ち着いちまった」
「すみません。お守りしてもらって」
「俺はお父さんかよ」
「そんな歳なんですか?」
「中学生のガキのいる歳じゃねーよ。まだ俺28だぜ」
「30代かと思ってました」
「ホント失礼なやつだなお前」
「見たまんまです」
「ああ、そうだよ。言われるよ。だいたいそう言うよ皆んな」
それから小島さんはちょっと真面目な声で僕に聞いた。顔は見えない。
「さっきのさ…なにがあった?」
「さっき?」
「いや…ほら、科学博物館の」
科学博物館…そうだった。僕は骨標本の特別展を…
「あ…」
井戸の底。
「やめて下さい」
「何がだよ」
「思い出したら…また…」
「また、ああなるのか?」
「なりそうで」
「なったらまた絞め殺してやるから」
「小島さんもうやっちゃダメって言ったですよね?」
「おま…それはそれ、これはこれだバカ。止まらんだろ―がお前」
「ああ、良かった。おねがいします」
「で? なんなの、どうなったの」
「ああ…骨が。井戸の底の骨が」
「あの透明な筒のか」
「心中だった…」
僕はまたあの冷えていく二人の身体を感じた。



