三度目の電話が鳴ったのは15分位してからだった。僕は携帯だけ握ってマンションの前の道に向かった。

「ごめん、遅くなって。途中で晩御飯買ってた。乗って」

 僕をプリウスの助手席に乗せると、すぐに清水センセは車を出した。まだ目が潤んでいた。

「なんか遅くなっちゃったね」
「電話、長くなってすみません」
「どうせ話してるんだったら、さっさと会いに来ちゃえば良かったな。怖くて言い出せなかった」
「すみません。何も考えてなくて……」
「しょうがないよ。だって今日は裕くんが混乱してるところから始まったんだし」
「そうですね」
「でも混乱してくれて良かった。だってお陰で君がまた来てくれるんだからね。まぁ、混乱は良くないけど。昨日のあれからまだ1日も経ってないのに、死ぬほど恋しかったんだ」

 初めて清水センセと会ってから3日。その3日のうちにもう3回も会っている。よく考えてみたらほぼ毎日だ。その間僕は頸動脈洞過敏症で1度倒れ、佐伯陸が来て、翌日は幸村さんまで現れ、その日に清水センセが再びやってきた。そしてあまりに濃密すぎて、1週間以上経っているような時間感覚になっているが、たったの3日なのだ。

「会ってからの苦しさがハンパなくてね。ほとんど寝てないんだ。現実感もぶっ飛んじゃったし」
「それはまぁ僕もですが」

 申し訳無さそうに清水センセがチラッと僕の顔を見た。

「僕のせいだね」
「はい。それもあります。でも、自分のせいでもあります」
「冷静なんだ、こんな時でも」
「全然。大混乱ですよ。毎日苦しいです」
「ごめん」
「さっきからずっと謝ってますよ」
「それしか言いようがないからさ。どんな弁解しても」
「もういいです。これ以上謝られても何も変わらないと思います」
「そっか、そうだよね……あっ!!」

 言い終わらないうちに、グンと身体全体に衝撃が走った。清水センセがいきなり急ブレーキを踏んでいた。

「うわ」
「ごめん!」

 脇道から軽トラックが横切って去っていった。清水センセは怯えた顔でハンドルを握ったまま固まっていたが、ハッとしてこちらを向くと叫んだ。

「大丈夫!? 怪我してない!?」
「僕は大丈夫です。先生大丈夫ですか?」

 清水センセは大丈夫大丈夫と一生懸命頷きながら、車を路肩へと移動して止めた。そしてハンドルに顔を埋めた。深呼吸の音がした。その格好のまま清水センセは僕に言った。

「……裕くん……大変、申し訳ないんだけど」
「大丈夫ですか? どうかしたんですか?」
「ごめん、後ろの席に移動してもらっていい? 今、僕、知らないうちに裕くん見てた。ここ見通し悪くないんだ。裕くん見てて軽トラ見てなかった。ヤバ過ぎる」
「いえ、別にここで死んでもいいですけど」
「僕が嫌だよ!! 軽トラの人もだよ!」
「あ、そうか。すみません」
「申し訳ないけど僕の真後ろに座ってもらえる? 視界に入るとダメだ。裕くんは何も悪くないからね」

 ドアを開け、後部座席に移動した。席の真後ろに座りバックミラーに映らないよう僕は身をかがめた。ゆっくりと路肩から車が離れた。車線に戻る。前回の初訪問の日は、ドライビングは安定していたのに。

「この前はこんなんじゃなかったですよ」
「ああ、直視できなかったから、逆に良かったのかもね」

 車内では深呼吸の音が繰り返され、車は安全運転をどうにか保っている。田舎の、しかも霊園に向かう県道は車もまばらで、僕達はすぐに見たことのあるメモリアルパークの看板を通り過ぎ、脇道を入ってぐるっと回ると林が見えてきた。もうすぐだ。