「裕、どうした?」
後ろから肩を掴まれた瞬間、僕はそのまま後ろに倒れた。大きな胸にすっぽりと包まれているのがわかった。抱きとめられている。
「はぁ…はぁ…」
息が上がる。もうダメだ。
「お前、まさか…」
「ごめん…なさい…」
小島さんに脇を抱えられたまま、僕はその部屋を出た。ロビーの椅子も小島さんはスルーしてエレベーターで1階に降りると、そのままパーキングに直行した。助手席ではなく後部ドアが開く。後ろの座席を手際よくフラットにし、そこに僕を押し込んだ。ドアのバンという閉まる音が聞こえた。後部座席の窓はスモークになっていて、外からは中が見えなかった。隔絶された空間が僕の最後の抑制を解いた。
「んあああっ!」
股間を両手で押さえてのた打ち回る僕を、小島さんは馬乗りになって押さえつけた。
「裕、裕、お前、これか…これのことか」
「そう…こっ…これ…これが…あ…」
「狂ってる…お前、いつからこんななんだよ」
「佳彦が…佳彦があぁ!…こんなの…ひどいよ…」
「あぁ…こんなにしちゃったんだ…松田」
「あの本が…僕に…わかってて…あの人…僕に」
小島さんは僕の肩を押さえつけたまま、悶える僕を呆然と見ていた。そしてゆっくり口を開いた。
「これはダメだ…裕…俺、理性飛ぶわ」
「とっ…止めてください…僕を止めて…!」
それを聞いた小島さんは僕の首を両手で掴んだ。
「これしか…ないんだろうな」
「ああっ!」
「俺は、落としたくない…ホントは」
でも、これで終われるんだよ…今は。
至福と絶頂が襲う。毎回毎回、裏切ることのないその効果に、僕は一瞬驚嘆した。
「お前が死にたいって…少し…わかった」
その言葉を遠くなる意識の中でうっすら聞いた気がした。



