これは彼に早急に確認しなければならないことだった。もし清水センセがシリアルキラーのサイコパスだったら、日常に紛れ、誰も気づかないような殺害方法を考えて罪の意識もなく実行するのだろうが・・・どうも彼の場合、無策になにかを引き起こしている風なのは否めない。事実、勝算もなく僕を拉致したり、激情にかられて僕に告白したり、パニクって僕の部屋の前でオロオロ待っていたりと、到底それはサイコパスとは思えない。よしんばこれらの行動がすべて清水センセによって計算された何かの謀略であるなら、僕はまだそれを見抜けていないし、清水センセは稀代の謀略家で名優と言えるであろう。
 なにか策があるのだろうか? 世間を紛糾させずに僕をすんなりとあの世に送りだしてくれるなにかの策が?

 現実的な思考が立ち上がり動き出すと同時に身体がようやく目覚めたようだった。洗面所に移動し歯を磨き服を着替える。その間もずっと考えていた。僕がごく自然にこの世から消える算段についてを。


 仕事場に着くと、未解決で放置されていたかのようだったあの事件のことで持ちきりだった。先日の、車中の凍死自殺屍体がやってきて以来、すっかり忘れていた・・・忘れたかったので。

「岡本くん! 岡本くん!」

 朝からハイテンションの鈴木さんの声が非現実に片足突っ込んでる僕の側頭部にワンワン響いてうるさい。微熱が沸いてくる。

「久殿山の身元不明遺体、DNA鑑定だって!」

 秋の山林の老女の腐乱屍体の身元が分かりそうだと。
 いまさらここで、か。このタイミングであの人が。気が遠くなりそうだった。虚無と優しさのサンタ・ムエルタ。鈴木さんの声が次第に遠くなっていった。