「あの人が・・・僕を本当に殺したい人が・・・ほんとうに殺されたい僕を殺してくれなかった・・・その時の絶望をあなた、理解できます? 理解できるから、僕を救おうなんて言ってくれたんですよね? 違いますか? 違ってたら・・・僕にこんな期待させないで下さいませんか? なんで泣いてるんですか? そんなんで僕を殺せるんですか!?」

 思わず握りしめていた拳でベッドを叩いていた。泣くな。謝るな。混乱するな。そこに我々の望みなどないだろうが!

「屍体は誰も憎まないってさっき言いました。でも、僕はあの人が憎い。僕に生を埋め込んだあの人が憎い。埋め込んでおいて責任も取らずに僕というゾンビを世間に解き放ったあの人が憎い! 僕は人生で初めて憎しみというものを知りました。だから僕はもう自分が屍体じゃないって、どっかで諦めてる・・・帰る道が見つからない・・・ずっとあの時から僕は・・・」
「じゃあ、僕が思ってたことって・・・」
「ぜんぶ、そのとおりですよ・・・清水センセ」

(あんなに僕達はお互いがどうすればいいかわかってた。それがこの世界では許されないから)

「僕を殺しても犯罪なんかじゃない! 僕は望んでたんだ! 死人を生き返して殺しても罪になんかならないのに・・・あの人がどれだけ僕を殺したがってたか・・・それを僕はどれだけ望んでたか・・・でも彼は世間で生きてくことを選んだ。それは仕方ないです。誰だって犯罪者になんかなりたくない。わかってる・・・好きにすればいい・・・誰だって好きにすればいい・・・だから僕も好きにしたい・・・あなたが言ってくれたみたいに・・・わかってますか? あなたがなにを言ったか。あなたがどれだけ決定的なことを僕に告げたか?」

 言いながらどうしようもなく涙が溢れてきた。僕は目を開けて彼を見上げた。

「あの夜が最悪なのは確かでした。あんなもの見たくなかった。でも結局僕はあなたに与えられた時間を通して気づいてしまったんですよ。僕はもしかしたら、たったひとつの望みが、渇望が叶うのかな、って」

 そこには、僕のことしか目に入ってない狂人が僕だけを見つめて放心していた。