僕を止めてください 【小説】



「も少しお静かに振る舞ってくださいませんか。ほんと考えなしですね」
「ごめん・・・もうどうしたらいいのかわからなくて」

 嗚咽混じりの発音のオカシイ声で清水先生は倒れたまま呻いた。どういうことだろうか? どうするもなにも、あなたがどうしたいのか僕はわかってるのに。

「どうしたらいいとか、おかしいでしょ」

 あんな明確な意図がありながら、泣きながらすがりついてくることの意味がわからない。しかし清水先生は震える声で命乞いのようなことを言い始めた。

「ごめんね。わかってる。取り返しがつかないことしたってわかってる! 自分でしたことなのに、こっ・・・こっ怖くてどうにかなりそうで・・・どうかしてた・・・どうかしてたんだ僕は! あんなことする気なんてなかった! 騙して抱きついて、あんなもの見せて・・・最低だ・・・最悪だった! ねぇ、どうしたらいいの? だって、君が僕の前からいなくなったら・・・いなくなったら・・・僕はもう生きていけないのに・・・ なのに僕は君の嫌がることしかしなかった! 君が見たくないものを無理やり見せて・・・脅迫まがいなこと言って・・・だって君を僕から離れられないようにするのって・・・どうしたらいいの? 生きてる人間に興味ないのに、僕のほう向いてくれるのになにをしたらいいか・・・でももうダメだ・・・嫌われる・・・裕くんから嫌われて拒絶される・・・縛り付けたって君から拒絶されたら僕はもう生きていけない・・・! どうすればいいのかわかんない・・・わかんないんだよ!」

 最後には清水先生は自分の手で頭を抱えていた。あまりの無策なカムアウトに驚いた僕は思わずしゃがみこみ、清水先生の顔を覗き込んだ。

「いまさら何言ってるんですか」
「え? どうゆうこと?」

 清水先生はようやく半身を起こし首をひねって僕に顔だけ向けた。清水先生はボロボロと泣き続けている。鼻水も涙も一緒になって糸を引いて顎から滴っていた。目が合った。あの圧倒的な支配の後にこんな無防備で哀れな目になれるんだ。僕はなんだか呆れてしまっていた。期待はずれなのかな。それは、嫌だな。

「あの、僕の死神さん、ですよね?」
「ゆう・・・くん・・・?」

 間抜けた返事に急に疲労感が襲ってきた。大きい溜息がひとつ出た。脱力した僕は清水先生の足元に靴を脱いでその横を通りぬけ、彼をそこに残したまま無言で部屋に入った。